一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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口腔機能を維持増進する義歯と義歯ケア

2021年6月12日(土) 11:30 〜 12:20 Line C (ライブ配信)

[SS1] 口腔機能を維持増進する義歯と義歯ケア

○水口 俊介1 (1. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野)

【略歴】
1983年 3月 東京医科歯科大学歯学部歯学科 卒業
1987年 3月 同大学大学院歯学研究科 修了
1989年 4月 同大学歯学部高齢者歯科学講座助手
2001年 4月 同大学大学院医歯学総合研究科口腔老化制御学分野講師
       ロマリンダ大学歯学部Visiting Research Professor
2005年 2月 同大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野助教授
2008年 3月 同大学大学院医歯学総合研究科全部床義歯補綴学分野教授
2013年 4月 同大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野教授
平成23年に厚生労働省から「歯科治療の需要の将来予測のイメージ図」が発表された。これまで歯科医療の対象が、う蝕や欠損補綴のような形態を回復する治療が主体であったが、全身疾患を抱えた通院困難な高齢者の口腔機能の維持回復を中心とするような歯科医療が求められてくることが記載されている。平成26年3月 国立長寿医療研究センターの研究班から「オーラルフレイル」の概念が発表された。すなわち「オーラルフレイル」は口腔に現れる虚弱を意味し、その症状としては滑舌低下、わずかなむせや食べこぼし、噛めない食品の増加とし、その前段階として、社会性や精神状態の低下により口腔リテラシーが低下し、その結果生じた歯周病やう蝕による歯の喪失が引き金になるとされている。したがって、オーラルフレイルを脱するためには、口腔リテラシーを高め口腔清掃を励行し歯の欠損を防止するとともに、欠損が生じた場合には歯科医院を受診し適切な補綴装置を装着することが重要となる。さらに日本老年歯科医学会は口腔機能低下症に関する学会見解論文を発表し、その内容が平成30年度の保険改訂によって、小児期の口腔機能発達不全症と共に、病名として保険収載されたのである。まさに歯科医療は“削って詰める”から“口腔機能を育成・維持し回復する”ことに主眼が移動したというイメージとなっている。平成28年度の歯科疾患実態調査によるといわゆる8020達成者は5割を超えた。歯が残っているのは良いことである。また歯を失っても適正な義歯を装着することが口腔機能の保全につながることは過去の様々な報告からも明らかである。しかしながら、歯が多く残っている故のう蝕や歯周病も高齢者において増加していることが実態調査から明らかになっており、高齢者及び義歯装着者の口腔の健康を管理することがますます重要であることが示されている。
 義歯ケアに関しては2011年Journal of American Dental AssociationにAmerican College of ProsthodontistsからのEvidence-based guidelines for the care and maintenance of complete denturesが掲載された。また平成26年には日本義歯ケア学会よりガイドラインが発表された。2019年にはOral Health FoundationよりWhite Paper on Optimal Care and Maintenance of Full Dentures for Oral and General HealthおよびWhite paper on guidelines for the use of denture adhesives and their benefits for oral and general healthが発表されている。しかしながらどれにも義歯ケアに関するエビデンスは十分とは言えないと記載されている。
 本日は、口腔機能、義歯、義歯ケアをキーワードとしてわれわれ歯科医療関係者が念頭におき、そしてなすべきことを明示したい。