一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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認定医審査ポスター5

2022年6月10日(金) 15:15 〜 16:45 認定医審査ポスター5 (りゅーとぴあ 2F スタジオAホワイエ)

[認定P-25] 心疾患を有する歯科治療恐怖症患者に全顎的治療および周術期口腔管理を行った症例

○奥 菜央理、柏﨑 晴彦 (九州大学大学院歯学研究院口腔顎顔面病態学講座 高齢者歯科学・全身管理歯科学分野)

【緒言】
重症大動脈弁狭窄症患者では,感染性心内膜炎 (以下,IE)の予防に配慮した検査と歯科治療が求められる。また,術後もIE予防の観点から,継続した口腔管理が必要である。今回,重症大動脈弁狭窄症患者に対して,IEに留意しながら義歯製作により口腔機能回復を行った症例に関して報告する。
【症例】
75歳女性。当院循環器内科より大動脈弁置換術の口腔機能管理依頼で当科初診となった。既往歴は重症大動脈弁狭窄症,関節リウマチ,脳梗塞後で,プレドニン錠内服やクロピトグレル錠内服よる易感染性,出血傾向を有していた。初診時(2021年3月)の歯科的現病歴は, 全顎的に中等度の辺縁性歯肉炎,└456急性化膿性根尖性歯周炎,3┴1う蝕症第3度であり,歯冠崩壊により義歯不適合,清掃状態は不良で└4部歯肉には瘻孔痕を認めた。なお,本症例患者は急逝されたが,本報告の発表について患者本人より生前,複数回口頭による同意を得ている。
【経過】
IE予防のため処置の1時間前にアモキシシリン 1,250mg投与し,2021年3月に└456抜歯術を施行した。6月に重症大動脈弁狭窄症に対して経カテーテル大動脈弁置換術前後の周術期口腔管理と咬合の早期回復目的に義歯修理を行い,口腔機能検査を実施した。修理義歯でのグルコセンサーによる咀嚼能力は67.0mg/dL,デンタルプレスケールⅡによる咬合力は305.1Nであった。新義歯装着直後(7月)に胸部大動脈瘤切迫破裂のため緊急手術となり,周術期口腔管理を再開した。術後2ヶ月後(9月)に,新義歯にて口腔機能検査を行ったところ,咀嚼能力78.0mg/dLと軽度の改善を認めたが,咬合力は112.5Nと依然低値のままであった。
【考察】
本症例は歯科治療に恐怖心を持ちながらも,患者自身が周術期管理をきっかけに歯科治療の必要性を理解した事, また術者も患者の恐怖心のある処置を把握した事,退院後も継続可能な治療計画を遂行できた事が,歯科治療の遂行に寄与した。一方,新義歯製作後も満足のいく咬合機能向上までは得られなかった。不適合旧義歯の使用により,初診時には安定した咬合位が喪失しており,義歯新製のみでは十分な咬合力回復に繋がらなかった。長期間の習慣的な咬合関係が構築されている旧義歯を利用,調整しながら新たな咬合関係へ誘導後の新義歯製作が必要であった。(COI開示:なし)(倫理審査対象外)