一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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シンポジウム11
病院歯科シンポジウム:高齢者を支える病院歯科の普及について語り合おう!

2022年6月12日(日) 14:10 〜 16:00 第1会場 (りゅーとぴあ 2F コンサートホール)

座長:大野 友久(浜松市リハビリテーション病院歯科 部長)

企画:特任委員会(病院歯科)
*認定制度指定研修

[SY11-3] 市中病院と地域における病院歯科活動

○長谷 剛志 (公立能登総合病院 歯科口腔外科)

【略歴】
2001年:北海道医療大学 歯学部 卒業
2006年:金沢大学大学院 医学系研究科 修了 医学博士
2009年:公立能登総合病院 歯科口腔外科 医長
2015年:同 部長
金沢大学大学院医薬保健学総合研究科外科系医学領域顎顔面口腔外科学分野 非常勤講師
「食力の会」代表

【資格】
日本口腔外科学会 専門医
日本口腔科学会 認定医・指導医
日本老年歯科医学会 認定医・指導医・摂食機能療法専門歯科医師

【受賞歴】
2001年:デンツプライ賞
2006年:日本口腔腫瘍学会 学会賞
2007年:日本口腔科学会 優秀論文賞
2015年:全国国保地域医療学会 優秀研究賞
2019年:日本口腔科学会 学会賞 など

【特許】
特許 第6901724号 食事観察サポートソフト「い~とみる」
【抄録】
 市中の「病院歯科」と言えども、超急性期病院の口腔外科から慢性期・老人病院の歯科など診療内容や取り組みには様々な体系がみられ、それぞれ特徴的な役割を担っていると推察する。したがって、高齢者医療における「病院歯科」の方向性を一括りにして述べることは非常に難しいことを予め断っておく。
 当院は、日本海に突き出た能登半島に位置する。県庁所在地の金沢市から北へ約70kmの七尾市に存在し、急性期病床(434床)を有した能登地域の中核病院である。能登地域は4市5町より構成され、面積は石川県の約半分を占めるが、人口は約20万⼈(石川県人口の約18%)、高齢化率は約40%の超少子超高齢過疎地域である。このような状況にある能登の地域医療の砦として県内に2つある救命救急センターの1つがあり、小児救急・精神科診療を含む能登全域の3次救急を担っている。また、能登地域の総合病院で唯一の「歯科口腔外科」を標榜しており、「地域歯科診療支援病院」として口腔疾患全般における病診連携を強化している。
  昨今、人口構成の移り変わりとともに、当院に紹介される患者の年齢層にも変化がみられる。私が当院に赴任した2005年と直近2020年の年齢分布を調べた。すると、2005年の新規患者は50歳代をピークに以降減少傾向にあったが、2020年は50歳代と80歳代に二峰性を示しており、新規患者の総数も高齢者を中心に増加している。 患者の年齢分布が変化した要因はいくつか考えられる。歯が残っている高齢者が増えたことにより加齢による歯性感染症が多くなっていること、生理的老化に伴う口腔廃用の一変化として(習慣性)顎関節脱臼が多いこと、骨吸収抑制薬を服用している高齢者が多く薬剤に関連した顎骨壊死が増えていること、心疾患や脳血管疾患を背景に抗凝固薬を服用している高齢者が多く、近在歯科開業医が抜歯等の観血的処置に対する術後出血を懸念するケースが増えていること、認知症により歯科治療の遂行が困難となるケースが増えていること、摂食嚥下障害の高齢者が増えていることである。これらが「病院歯科」への紹介内容として増加傾向にあり、年齢分布の変化に影響していると考えられる。
 一方、高齢入院患者の周術期等口腔機能管理や摂食嚥下診療に積極的に介入することで入院中のみならず退院後の口腔管理の継続と食支援の方向性について考えなければならない。「病院歯科」は入院時に医科より紹介された患者の口腔を診察することで、かかりつけ歯科医との連携が途切れてしまった患者のつなぎ役として重要である。また、高齢入院患者の中には口腔が放置された状態(歯科難民)である場合も多いため、入院中の口腔健康管理をきっかけに退院後は地域の歯科医院に紹介することも忘れてはいけない。さらに、医療と生活の両面で高齢者の摂食嚥下機能についても「病院歯科」は地域連携を組む必要があるだろう。