一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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認定医審査ポスター

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認定医審査ポスター

2024年6月28日(金) 14:40 〜 16:10 ポスター会場 (大ホールC)

[認定P-01] 放射線性顎骨壊死の顎骨再建症例に対し顎義歯により口腔機能を回復した1例

○大橋 伸英1,2、飯田 貴俊3 (1. 札幌医科大学医学部衛生学講座、2. 札幌医科大学医学部口腔外科学講座、3. 北海道医療大学歯学部 生体機能・病態学系 摂食機能療法学分野)

【緒言・目的】
 頭頸部癌の放射線治療後の晩期障害では,口腔乾燥,多数歯う蝕,開口障害を生じやすい。放射線性顎骨壊死(以下ORN)は放射線照射野内の抜歯や口腔粘膜の創傷を契機に生じやすく難治性である。根治療法は外科切除であり,顎欠損部は骨皮弁により再建されることが多いが,高齢者の場合,切除・再建の受容に難渋しやすい。今回,顎骨再建後の顎義歯により口腔機能の良好な回復を得た症例を経験したのでその概要を報告する。
【症例および経過】
 72歳,男性。既往歴は中咽頭癌(左側壁),前立腺癌,脊柱管狭窄症。2020年5月に中咽頭癌に対し近医で化学放射線治療が施行され, 2021年4月に再発し,中咽頭悪性腫瘍切除が施行された。その後は再発なく経過していたが,同年10月に左側下顎骨にORNを認め当科初診となった。患者は,顎骨切除・再建による根治療法を希望せず,保存療法を選択し経過観察となった。症状の増悪と軽快を繰り返した結果,ORN範囲が拡大し,2023年5月に左側下顎区域切除術,腓骨皮弁による顎骨再建術を施行した。術前の口腔内は放射線治療の晩期障害による多数歯う蝕と多数の不適合補綴物を認め,開口障害の影響で歯科治療が困難であった。術後は開口量が増大し,術後9日目からう蝕・補綴治療を開始し,暫間補綴物を仮着した状態で術後24日目に退院となった。退院後から下顎の顎補綴,上顎の義歯の作製を開始し,術後2か月で義歯が完成し,食形態は術前の嚥下調整食4(学会分類2021)から常食へ改善した。
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 ORNは生死に直接関与する悪性腫瘍とは異なり,高齢患者は外科治療ではなく保存療法を希望することが多いが,生活の質の向上のために,根治療法である外科治療の有効性を長期間かけて丁寧に説明すべきである。下顎の硬性再建では遊離骨皮弁を使用するが,咬合・咀嚼・嚥下機能を考慮した骨の配置が重要である。術後の補綴では再建骨に対し広範囲顎骨支持型装置による機能改善が図られることが望ましいが高齢患者ではインプラントに関連する外科手術の回数が増え外科的侵襲が大きいと考えられる。本症例のように顎補綴による治療が機能改善に有効な場合もあるため,高齢者の特性を踏まえた再建・補綴方法の選択が重要であると考えられた。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)