一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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認定医審査ポスター

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認定医審査ポスター

2024年6月28日(金) 14:40 〜 16:10 ポスター会場 (大ホールC)

[認定P-33] 抗精神病薬を休止することで主訴である体重減少や食事でのむせが改善した症例

○魚田 知里1、野原 幹司2 (1. 大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部、2. 大阪大学大学院歯学研究科 高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室)

【緒言・目的】
 高齢者の嚥下障害の原因を考えるにあたり,神経変性疾患などの進行や加齢変化といった不可逆的な機能低下がある場合は機能の維持を目的に対症療法を行うが,可逆的な機能低下には原因に沿った適切な対応で機能改善を図る必要がある。機能改善が期待できるのは,脳血管障害などの嚥下障害の原因疾患が回復期に入った場合,廃用改善のために訓練を行った場合などが考えられる。しかしながらこれらの状況・対応下で機能が改善しない場合でも薬剤の観点からのアプローチが奏効する場合がある。今回,脳梗塞・COVID-19感染後に退院して以降も体重減少や食事でのむせが続いていた高齢者に対し,服薬調整したことで症状が改善した1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 86 歳,女性。脳梗塞(2007年発症),糖尿病,高血圧,気管支喘息,慢性腎不全,認知症の既往あり。2021年6月から2022年2月にわたり右小脳梗塞・COVID-19感染で入院していたが,退院後も体重減少,食事のむせが続くという訴えがあり2022年4月16日に訪問診療を行った。診察時は意欲低下を認め意思疎通不可能で,脳梗塞による右側上下肢の麻痺以外に神経学的所見は認めなかった。嚥下内視鏡検査では冷えた水で誤嚥はなかったが,常温の水は食道入口部に達しても嚥下反射が生じず不顕性誤嚥がみられたことから嚥下反射の閾値の上昇が疑われた。意欲低下や嚥下反射の閾値の上昇の原因として,脳梗塞やCOVID-19の後遺症・加齢の影響も考えられたが,入院時から処方されているチアプリド塩酸塩の有害事象の影響が疑われた。方針として,食事指導(栄養補助食品や食事の温度を指示)を行い,胸郭可動域訓練を指導した。加えて処方医に抗精神病薬の休止を依頼した。その後当該薬は休止され,2か月後には意欲低下が解消して食事摂取量が上がり,食事のむせが改善した。また初診時から5か月で体重が3kg増加した。なお本報告の発表について患者本人から同意を得ている。
【考察】
 高齢者は多疾患併存,加齢変化などにより薬剤の有害事象が発生するリスクが高い。嚥下機能低下を生じた際には疾患や加齢の影響に限らず,服用薬の経過にも視野を広げて原因を考察し対策する必要がある。
(COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)