一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

講演情報

優秀ポスターコンペティション

優秀ポスターコンペティション » 歯科衛生士部門

歯科衛生士部門

2024年6月29日(土) 13:10 〜 14:10 ポスター会場 (大ホールC)

[優秀P衛生-02] 歯科訪問診療の介入により認知症患者のQOL改善に貢献できた症例

○長瀨 麻樹1、郷田 瑛1、徳永 淳二1、古屋 純一2 (1. 逗子メディスタイルクリニック、2. 昭和大学大学院口腔機能管理学分野)

【緒言・目的】
 認知症が進行すると口腔衛生管理の自立度が低下するだけでなく,口腔の不具合を表出することや,歯科受療行動そのものが困難となる。その結果,口腔疾患が重症化し,低栄養や認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia,以下BPSD)の悪化につながることが少なくない。今回,口内炎を契機に摂食困難となった認知症患者において,歯科訪問診療によりQOL改善に貢献できた症例を報告する。
【症例および経過】
 88歳の男性。アルツハイマー型認知症があり,口内炎による疼痛で食事がとれないと在宅医より歯科訪問診療を依頼された。1年近く口腔清掃が不十分であり,残存歯の大部分が齲蝕のため歯冠崩壊し,舌には直径8mm大のアフタ性口内炎を認めた。栄養はコーヒー牛乳と濃厚流動食のみを摂取していた。初回診察時より大声を出す,手を振り払うなど診察への強い拒否がみられた。口腔衛生状態の改善および口内炎の治癒を目標に,週1回の口腔衛生管理を開始した。また,訪問介護員および介護支援専門員と連携し,歯科医師の指示のもと食後の含嗽とステロイド外用剤の塗布を依頼した。訪問を重ねるにつれ拒否も減り,歯ブラシを使った口腔清掃が可能となった。訪問および通所介護員による介助磨きを開始し,最終的には見守りのもと自立した口腔清掃が可能となった。また,口腔健康状態に合わせた食形態の調整を行い,介入半年後には常食摂取が可能となり,口内炎は,5週間後に治癒して,BPSDの改善も見られた。なお,本報告の発表について患者家族から文書による同意を得ている。
【考察】
 認知症患者は口腔の問題が顕在化しにくく,問題が放置される傾向にある。本症例では口内炎をきっかけに歯科受診につながったが,介入時点で口腔内は崩壊し,BPSDのため歯科治療が困難な状態であった。支援の重点を治療では無く生活支援に置き,患者の情緒面に配慮して,多職種に口腔ケアのポイントを適切に伝えられたことで,口腔衛生状態を改善することができた。口腔衛生状態の改善が栄養状態およびBPSDの改善に繋がった経験から,たとえ治療困難症例であっても,歯科専門職が適切な口腔健康管理を通じて認知症患者のQOL向上に貢献できることが示された。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)