一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

講演情報

一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター発表) » 全身管理・全身疾患

全身管理・全身疾患(質疑応答)

2024年6月29日(土) 10:40 〜 11:40 ポスター会場 (大ホールC)

[P-20] 薬物性歯肉増殖症を疑う高血圧症老年患者に対して歯周治療で劇的に歯周状態が改善した症例

○寺本 祐二1、中井 久2、片山 実悠2、葛島 良紀4、稲田 信吾3 (1. 寺本歯科医院、2. 中井歯科医院、3. いなだ歯科クリニック、4. きらり歯科)

【緒言・目的】
 カルシウム拮抗剤の副反応のひとつに薬物性歯肉増殖症がある。老年者における残存歯数は増加傾向にあり、それに伴い歯周病の老年患者が増加傾向にある。今回、我々は薬物性歯肉増殖症を疑う高血圧症老年患者に対して歯周治療を行い劇的に歯周状態が改善した症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 患者は73 歳、女性。2021年9 月に歯の動揺を主訴に当院を受診した。現病歴は20年程前から高血圧症と診断されて内科よりカルシウム拮抗剤が処方されている。以前より歯肉の腫脹と出血が気になっていたが、今回歯の動揺があり当院を受診した。既往歴は高血圧症、完全右脚ブロック、骨粗鬆症。内服薬はイルアミクス錠®、エルデカルシトールカプセル®があった。口腔内所見は全顎的に重度歯周炎を認めた。エックス線写真の所見では著しい水平的な骨吸収がみられた。歯周治療が必要であることを患者に説明し、医科主治医に対診を行った。初診時の残存歯26本中、全ての歯の歯周ポケットで6mm以上を計測、その後歯周治療を行い3本保存不可で抜歯となったが劇的に歯周状態は改善した。暫間補綴を行い、歯周状態が安定しているのを確認して最終補綴を固定式にて行った。
【考察】
 令和4年歯科疾患実態調査における8020達成者(75歳以上85歳未満の数値から推計)は51.6%で増加傾向にあるものの、4mm以上の歯周ポケットを有する75歳は20年前と比較して罹患率が28%から56%に増加している。すなわち、老年期における歯周病患者は増加傾向にあることから今後臨床において医科歯科連携や歯周治療の重要性が高まる。自験例においては、医科主治医に対診をして薬剤の影響の可能性を伝えつつ、血圧は安定しており薬剤の変更や減量はせずに歯周治療にて改善ができた。患者は歯周病という疾患を理解することで可撤式義歯を回避したいという希望から熱心に歯周治療に取り組み、固定式の補綴治療が可能となり患者の満足が得られた。また、医科主治医にも歯周状態の共有を行うことでカルシウム拮抗剤の副反応のひとつに歯肉増殖があることを認識してもらうことに繋がった。これからの老年歯科医学の役割として高齢者の歯周管理の重要性が示唆された。
( COI 開示:なし)
(倫理審査対象外)
(発表について患者の同意を得た)