一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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シンポジウム3
日本歯科心身医学会提案シンポジウム 高齢者での歯科心身症とその対応

2024年6月29日(土) 10:20 〜 11:40 第2会場 (特別会議場)

座長:安彦 善裕(北海道医療大学 生体機能・病態学系臨床口腔病理学分野)

企画:大会長

[SY3-3] 高齢者に見られる口腔セネストパチーの特徴と対応

○梅崎 陽二朗1 (1. 福岡歯科大学 総合歯科学講座 高齢者歯科学分野)

【略歴】
2009年 東京医科歯科大学歯学部 卒業
2010年 東京医科歯科大学大学院 歯科心身医学分野 入学
2014 年 同大学院修了、歯学博士取得
2014年 Brain stimulation lab, Medical University of South Carolina, Research Scholar
2015年 東京医科歯科大学歯学部付属病院 歯科心身医療外来 医員
2017年 福岡歯科大学 総合歯科学講座 高齢者歯科学分野 医員
2020年 同分野 講師
2021年 同分野 准教授
【抄録(Abstract)】
口腔内の違和感を執拗に訴えられ、対応に苦慮した経験はないだろうか。「歯肉からベタベタしたものが出てくる」といった訴えで唾液を瓶に入れて持参したり、「唾液が止まらない」と常にティッシュを咥えている症例、或いは「歯肉にワイヤーや板が貼り付いているのに、うまく取れない」といったような常識的には理解し難い愁訴の場合もあるかもしれない。もっと病状として軽く、「口の中がネバネバする」「ザラザラする」といった訴えが、歯周基本治療などを繰り返してもなかなか改善しない、という症例であれば、高齢者を診察するほとんどの臨床家が遭遇しているものと思われる。
このような病態は、歯科心身症の中でも「口腔セネストパチー」と呼ばれている。「セネストパチー」という言葉自体は、精神科で用いられていた用語だが、口腔内の愁訴の場合は精神科よりも歯科の受診率が圧倒的に高く、近年では歯科からの報告が多い。本症は多彩で変動する口腔内の違和感や異物感を訴える病態で、「口の中では感じるのに、指で触ってもわからない」といったように比較的症状に対する客観性を持っている場合が多い。そのため、精神科的にも幻覚や妄想とは異なり、「体内感覚の変質」とみなされてきた。歯科で十分対応可能な症例も多いが、精神科領域との線引きが困難な症例もしばしば経験される。高齢者の場合は、レヴィー小体型認知症の前兆として出現する症例も報告されており、慎重な経過観察が必要な病態である。
明確な診断基準がなく、臨床現場や研究において混乱が生じることもしばしばあったため、本年我々は日本歯科心身医学会誌において「口腔セネストパチー」のポジションペーパーを発表した。このポジションペーパーでは、可能な限り古い文献も渉猟し、「口腔セネストパチー」の概念や疫学、病因、病態生理、治療法について解説している。依然として曖昧な部分も多分に含む疾患概念ではあるが、学会として一定のコンセンサスが得られた内容になっている。本講演では、ポジションペーパーを元に、主に「口腔セネストパチー」の概念や病態生理、治療法について概説したい。また、具体的な自験例を提示しながら、本症への適切な対応法についてもディスカッションしていきたい。