第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD5] 重症患者を回復に導く早期リハビリテーション

2019年6月16日(日) 13:10 〜 14:20 第2会場 (3F 国際会議室)

座長:久間 朝子(福岡大学病院)、田山 聡子(慶應義塾大学付属病院)

13:10 〜 13:20

[PD5-1] 重症患者を回復に導く早期リハビリテーション教育の現状と課題

○小松 由佳1 (1. 杏林大学医学部付属病院 看護部)

キーワード:早期リハビリテーション、回復支援

 近年、重症患者の各種治療法や全身管理の進歩により救命率は向上したが、単なる延命や長寿等医療の量的進歩に留まらず、社会の日常生活や社会生活が質的・内容的に充実した医療への願望の高まりから、ICU退出後や退院後においてもその人らしい生活が送れることを前提とした医療へと変化してきている。その背景には、2012年のSociety of Critical Care Medicine (SCCM)で、post-intensive care syndrome (以下、PICS)という概念や、ICU-acquired weakness(ICU-AW)という概念が提唱され、集中治療を受けた患者の身体に限らず心理・社会的側面の機能改善を含めた長期転帰改善を検討すべきとされている。さらには、2013年に発表されたPADガイドラインの特徴は薬物投与ありきでなく、すべての患者は痛みを有するものとしてその対応を最優先にすることが強調され「analgesia first sedation」として十分な鎮痛と浅めの鎮静を組み合わせることが推奨されてきた。しかし患者を中心とした苦痛やストレスに対応するケアが推奨されてきたにもかかわらず、ICU後の運動制限、知的・精神的障害、QOLの低下、数ヶ月経過しても1/3の患者が社会復帰できないことなど様々な後遺症に苦しみ、さらには高額な医療費を払い続けていることが重要な問題として捉えられ、2018年にはPADに早期離床と睡眠促進を加えたPADISガイドラインとして発表されるなどICU患者の長期転帰改善への期待はさらに高まりつつある。一方、ICU患者の早期リハビリテーションの効果においては、せん妄期間の短縮やICU在室期間や在院日数短縮、退院時Barthel Indexおよび機能的自立度の改善、退院時ADL再獲得の報告は少ないが身体機能や基本的動作を改善することが認識されつつある。つまり本邦では、超高齢化社会が進展し、ますます深刻化する医療経済や倫理的側面の問題を抱えながら生活している人々が多くなると考えられる中、早期リハビリテーションを単体で行うことに焦点をあてるのではなく包括的なケアの一貫としての早期リハビリテーションとして重要なポジションにあるといえる。言い換えれば、ICU退出後や退院後においてもその人らしい生活が送れることを目的とし、包括的な早期リハビリテーションを専門的多職種チームで実践していくことが重要といえるのではないだろうか。
 2018年4月診療報酬改定により、ICU入室後48時間以内に専門的多職種チームが連携して、予め作成したプロトコルに基づいて早期リハビリテーションを実施することが求められている。チーム体制を整備することの利点は、円滑なスタッフ間のコミュニケーション基づき「情報の共有化」と「業務の標準化」によって「安全面の担保」が確保できることにある。また、早期リハビリテーションにおける看護師のチーム内での役割は、安全かつ効果的に実施するための環境を整備し、患者の日常生活を支援することである。現在、多職種を対象とした学習会を指導している中で、チーム全員があるプロトコルに従い、どのタイミングで何を観察し、どのように評価・実践するかを中心に指導すると同時に、その人らしさを意識し個別に対応した机上訓練学習や演習を通じて、チーム内での自身の役割が認識出来るといった成果がある。今回は、そのような学習の現状と今後の課題について述べる。