第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD5] 重症患者を回復に導く早期リハビリテーション

2019年6月16日(日) 13:10 〜 14:20 第2会場 (3F 国際会議室)

座長:久間 朝子(福岡大学病院)、田山 聡子(慶應義塾大学付属病院)

13:20 〜 13:30

[PD5-2] エビデンスやガイドラインとのgapを考慮した早期リハビリテーションの実際

○入江 将考1 (1. 国家公務員共済組合連合会 新小倉病院リハビリテーション部)

キーワード:早期リハビリテーション

 近年,重症患者に対する早期リハビリテーション(早期リハ)が重要視されてきている.我が国でも早期リハ加算が保険収載され,また日本集中治療医学会がエキスパートコンセンサスを上梓し,もはやその必要性は,広く浸透してきていると言える.一方で,早期リハの実践には,様々な障壁が存在する.例えば,深い鎮静管理,人工呼吸器,各種ルート・デバイスといった環境要因,マンパワーや関連職種間の連携不足といった人的要因である.これらは現場における,早期リハの習慣・文化が不足していることに起因していることが大きく,これを根付かせることが重要である.もう一つの阻害要因は,重症患者を動かす事に伴う安全性の担保の難しさである.そのため,様々な安全基準や中止基準が,専門家らによって公表されている.その内容は,呼吸器系,循環器系,その他の領域と体系的にまとめられ,必要に応じて数値的基準も設けられている.また,実際の流れやプロトコールも提示され,これらの活用は早期リハの実践に役立つものである.
 しかしながら,疾患の重篤さや,病態・病勢の不安定性によって,画一的なリスク管理は困難で,実際には各患者で臨機応変に対応しなくてはならない場面もある.本パートでは,離床や早期運動(モビライゼーション)を実践する理学療法士の立場から,各種基準やプロトコールを活用するためのポイントを概説する.
 理学療法士の役割には,患者のアセスメント,実施中のモニタリング,効果のフィードバックが含まれている.つまり,”運動負荷を掛けて良いのか”,”どの程度掛けるのか”,”効果的であったのか”を,適切に判断できなくてはならない.負荷を掛けて良いのかという根拠は,禁忌や開始基準に含まれている.禁忌は安静を優先させるべき状態,つまり”安静の効果”が”安静のリスク”を上回る状態である.つまり,病態・病勢の把握と,現行治療の効果判定,各種臓器の予備能を評価できなくてはならない.諸家による各種基準を活用するのは有益だが,重要なのはそれらを丸暗記することではなく,各項目が何を意味し,数値基準が示す各種臓器機能の障害度を理解しておくことである.
 実施中のモニタリングのポイントは,離床や早期運動がどの位の負荷になるか,そして,患者がどの程度の臓器予備能を有しているか,という両者のバランスを”動かしながら読み取っていくこと”にある.予備能を超える過度なリハビリを回避するには,潜在的なリスクは患者毎に異なるため,各々の呼吸・循環パラメータの変動上限・下限をチーム内で確認しておく必要がある.また,リスク管理だけでなく,各患者に至適運動負荷が掛かっているのかを判断するために,許容範囲内で各パラメータが適度な上昇を伴っているのかチェックすることも忘れてはならない.
 このようなモニタリングや効果判定は,各種基準と照らし合わせるだけでは不十分で,このgapを埋めるには,”ディコンディショニング”の存在が鍵となる.これは診断名ではなく,ベッド臥床や不動が原因となり多臓器系に引き起こされる生理学的現象である.狭義には,運動耐容能(酸素運搬能)の低下を指すが,急性期では起立耐性能低下から始まることが多い.ICU患者は,基礎疾患や病態によって呼吸・循環器系の予備能低下を生じやすい.しかし早期リハ実施中は,疾患関連因子による予備能低下と,安静・不活動による悪影響とを区別しなくてはならない.つまり,後者を示すディコンディショニングが,どの程度存在するのかを,離床・早期運動という負荷試験を行いながらモニタリング・効果判定するのが重要となる.