第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

[O9] 鎮痛・麻酔

[O9-3] 自発覚醒トライアル(SAT)の実践における看護師の意識変化

○小池 康平1、山本 恭代1 (1. 松江市立病院)

キーワード:自発覚醒トライアル(SAT)、看護師の意識、ICU

【目的】
 ICUでは人工呼吸ケアにおいて鎮静薬を使用するが、過鎮静による人工呼吸器装着期間の長期化、リハビリテーションの遅れ、せん妄などの弊害がある。日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドラインでは、毎日の自発覚醒トライアル(Spontaneous Awakening Trial:SAT)が推奨されているが、当院では定着していない。その理由として、看護師のSATに対する意識が関連しているのではないかと考えた。そこで、看護師のSATに対する意識を高める介入を行い、その変化を明らかにすることを目的に本研究に取り組んだ。
【方法】
1.対象:研究同意を得られた当院ICU看護師12名
2.期間:平成30年9月~令和元年5月
3.方法:アクションリサーチ法
1)実態把握:SATに関するアンケート調査の実施。文献を元に、「実践したことがない」「対象患者に毎日SATを行っていない」「実践方法がわからない」「開始時期がわからない」「必要性がわからない」「SATを行うことに不安がある」「患者の苦痛が強くなりそう」「バイタルサインや状態に悪影響を与えそう」「事故のリスクが増えそう」「患者が痛みを感じているとき、鎮静薬を使用している」など、13項目の独自の調査表を作成した。5件法を用いて「1.そう思わない」を1点、「5.そう思う」を5点で得点換算した。2)介入①:アンケート調査の結果を元に、勉強会の実施と多職種カンファレンスを導入。介入②:4か月間SATの実践。3)介入評価:実態把握時と同様のアンケート調査の実施。各調査項目の前後の点数に対してWilcoxonの順位和検定を行い、有意水準は0.05%とした。
4.倫理的配慮:当院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者に研究の主旨及び方法、匿名性の保持、院内外で発表する可能性などを口頭および文書で説明し、同意を得た。
【結果】
 調査得点が高い項目ほど、SAT実践の阻害要因になっていると言える。介入前に最も点数が高かった「開始時期がわからない」は、介入後に点数が大幅に減少した。しかし、「事故のリスクが増えそう」「患者が痛みを感じているとき、鎮静薬を使用している」は、点数が増加した。「患者の苦痛が強くなりそう」「バイタルサインや状態に悪影響を与えそう」の点数は微減だった。「必要性がわからない」については、介入前後で最も点数が低かった。介入前後の点数に対してWilcoxonの順位和検定を行った結果、「実践したことがない」「対象患者に毎日SATを行っていない」「実践方法がわからない」「開始時期がわからない」「SATを行うことに不安がある」の項目に有意差が認められた。
【考察】
 介入により、「実践したことがない」「対象患者に毎日SATを行っていない」「実践方法がわからない」「開始時期がわからない」「SATを行うことに不安がある」の項目で意識を向上させることが示唆された。勉強会やカンファレンスによる知識の習得と、チーム全体でSAT実施の妥当性を検討することは、SATの実践に対する不安の軽減に繋がったと考える。「患者の苦痛が強くなりそう」「バイタルサインや状態に悪影響を与えそう」の点数は微減だったが、介入前の自由記載で最も多かったこれらに関する不安の記述が介入後は全くみられず、良い徴候と言える。また、当院ICU看護師は、SATの必要性について全項目の中で最も理解を示していることが分かった。これは、本研究開始以前にもSATの勉強会と業務への導入を行っており、すでに関心が高かったためだと考えられる。現時点では不安の払拭は十分とは言えず、安全保持との両立、適切な鎮痛薬の使用や疼痛評価に関する知識不足などの課題も明らかになった。