第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(示説)

[P2] 鎮痛・鎮静、せん妄ケア

[P2-5] 当院ICU患者におけるせん妄発症状況と関連する危険因子の実態調査

○中村 倫丈1、越口 晋伍1 (1. 公益財団法人慈愛会 今村総合病院 看護部)

キーワード:せん妄、危険因子

<目的>

 せん妄を引き起こす危険因子は、Lipowskiらの分類によると、直接因子、誘発因子、準備因子の3種類に類型化されており、これらの3つの要因が重なり合ってせん妄が発症することが知られている。せん妄を発症すると、死亡率の増加・ICU滞在日数の延長・人工呼吸器装着期間の延長だけではなく、認知機能の低下をもたらすなどの有害転帰が指摘されており、せん妄発症自体が治療経過・予後に影響を及ぼす。そのため、当院ICUにおけるせん妄発症状況と関連する危険因子を調査することで、今後のせん妄発症の予防ケアを考え、取り組む契機につなげることができないかと考えた。

<方法>

 2019年4月から2019年7月に当院ICUに入室した患者191名(外科系術後患者:腹部外科、脳外科、その他外科。内科系患者:総合内科、循環器内科、その他内科)に対して、ICDSCでせん妄の有無を評価した。せん妄発症に関連する危険因子については、Lipowskiらの分類に基づいた項目を抽出し有無を調査した。分析にはExcel統計2013ソフトを使用した。年齢に関してはt検定を用いた。危険因子の各項目ごとの2群間の比較には、X検定、フィッシャー検定を用いた。なお、本研究は研究施設の倫理委員会の承認を得て実施した。

<結果>

 対象患者191名の平均年齢は69±16歳であった。せん妄発症群は53名(27.7%)、非せん妄発症群は138名(72.2%)であった。男女差は、非発症群/発症群では、男性71名/30名、女性67名/23名であり、有意差はなかった。年齢は、発症群で76±15歳、非発症群で66±16歳であり、有意差がみられた(P<0.001)。せん妄発症者の年齢分布は,65歳から69歳が3名(5.6%),70歳から74歳が3名(5.6%)、75歳から79歳が5名(9.4%)、80歳から84歳が11名(20.7%),85歳から90歳が15名(28.3%),91歳以上が4名(7.5%)となった。また65歳以下の患者でもせん妄は発症し、年齢問わず発症しているが、高齢になるほど発症率が高い結果となった。せん妄の発症日は,入室日30名(57%),2日目13名(25%),3日目3名(6%)とICU入室すぐが多かった。危険因子を分析した結果、有意差があったものは、「認知症」「鎮静薬」「人工呼吸管理」「身体拘束」であった。これらの人数の内訳は、非発症群/発症群では、認知症11名/15名(P=0.002)、鎮静薬41名/45名(P<0.001)、人工呼吸管理27名/19名(P=0.018)、身体拘束11名/36名(P<0.001)であった。

<考察>

 せん妄はICU入室日から翌日までに最も多く発症しており、入室直後から早期に介入する必要があることを再認識する結果となった。高齢者ほど発症率が高く、認知症を有する患者では、より発症しやすくなっており、入院時にスクリーニングすることでせん妄になりやすい人を特定し、せん妄の予防的計画を立て看護ケアにあたることが重要と考えられる。
 人工呼吸器患者では酸素化の安定、呼吸器との同調を図るためにも鎮静薬の投与が気管挿管した初日から開始されることが多い。一方で、気管挿管の直後は安全確保の目的から、一時的であっても身体拘束をせざる得ないことも多い。入室日から2日目にせん妄発症率が高いことは、これらに関連した影響がでていると考えられた。