第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

教育講演

[EL4] クリティカルケアにおける安全文化の作り方

2022年6月12日(日) 09:00 〜 10:00 第6会場 (総合展示場 311-313会議室)

座長:茂呂 悦子(自治医科大学附属病院)
演者:濱本 実也(公立陶生病院)

09:00 〜 10:00

[EL4-01] クリティカルケアにおける安全文化の作り方

○濱本 実也1 (1. 公立陶生病院)

キーワード:安全文化、Safety-Ⅰ、Safety-Ⅱ

医療において安全の担保が重要であることは、言うまでもありません。臨床では、安全を確保するために様々な取り組みが行われていますが、マニュアルの整備やスタッフの教育は、この代表的なものかもしれません。一方で、安全文化の醸成には時間がかかります。また、方向性を誤るとスタッフのストレスだけを蓄積することにもなりかねません。特に、命と直結するケアや管理を行うクリティカルケア領域においては、とりわけ事象を重くとらえる傾向が強くなると感じています。たとえば、点滴を固定したあとの確認で、ルートが屈曲していたとします。部署によっては「気を付けようね」で終わるかもしれませんが、私の知るICUでは、多分こう言います。「もしカテコラミンだったら、大変なことになっていたよ」確かに、小さなミスが大きな事故につながる可能性を考えて指導することは非常に重要です。ただ、小さなミスも決して許さないという環境は、安全文化の醸成を考えると、逆にマイナス面もあります。では、どうやって安全文化を作っていけばよいのでしょうか?この答えを探すため、代表的な安全のアプローチであるSafety-Ⅰ、Safety-Ⅱについて少しおさえておきたいと思います。
突然ですが、私は自転車で通勤をしています。小学校3年生の時に自転車の免許(当時は小学校が出していたのです)を頂いてからこれまで、事故になりそうな局面を何度も経験しています。Safety-Ⅰの考え方は、自転車に問題がなくマニュアル通りの手順でミスなく運転できていれば、事故は起こらないという考え方に立脚しています。でも、実際は危うい目に何度もあっています。それは、風が強くて通常の運転ができなかったり、籠の荷物が重たくてハンドルをとられたり、雪が降って道路が滑ったり、そんな状況の変化によってもたらされました。ここで、Safety-Ⅰの考え方で、対策を立ててみたいと思います。まず、自転車の整備として、雨用のタイヤ、風が強い時の抵抗を軽減する工夫、雪の時のチェーン、籠が重い時の補助機能、または加重制限などを検討する必要があります。また、運転上の注意点やテクニックについて、雨風台風雪霰とあらゆる環境の変化に対応できるようマニュアルを作成しなければなりません。勿論、それぞれのバージョンでの運転訓練も欠かせません。ただ、ここまでしなければ安全に乗れないとなると、ちょっと現実的ではないかもしれませんね。少なくとも小学校3年生で免許をもらうのは無理そうです。では、Safety-Ⅱではどう考えるのでしょうか?私がこれまで、事故になりそうな局面を回避できたのは、自転車の運転だけでなく、状況判断能力を含めて調整能力を持っていたからだと考えます。状況の変化に柔軟に対応できているから、安全に乗れているというわけです。
このように、Safety-Ⅰは失敗や問題が関心の対象になりますが、Safety-Ⅱではできていることや、うまくいっていることが関心の対象となります。臨床では、この2つのアプローチをバランスよく活用することが、安全文化を作るために重要だと考えています。今回、Safety-Ⅰ、Safety-Ⅱと実現に必要な4つの能力について紹介しながら、安全文化の作り方について、少々私見も交えながら、まとめていきたいと思います。