11:30 AM - 11:50 AM
[SY10-03] 問いを立てることをあきらめず、つながりを頼りに進む
Keywords:アクションリサーチ、現象学、専門看護師
看護の実現は臨床にある。筆者はその視座に依拠し、臨床すなわち実践の現場を足場に研究している。日々の実践においても研究においても「この人にとってよりよいケアとは何か」の問いが立つ。その探求から実践の向上を目指す一方で、実践者として「研究の知見をいかに実践に活用するか」にも日々向き合ってきた。最近の研究を通して仲間との出会いに支えられる細々とした歩みを紹介し、登壇者・参加者の皆様との議論に参加したい。
問いは患者さんとの出会いに始まる。重症患者の予後をよくする治療戦略として鎮痛を優先した鎮静管理が実践されるようになり、経口気管挿管中の人工呼吸器装着患者とコミュニケーションがとれるようになった。なったはずだった。しかし医療者主導で一方向性のコミュニケーションに編重している現状を目の当たりにした。予後をよくするEBMの実践は、当事者の患者にどう経験されているのか。そこに看護は必要なケアを提供しているか。その問いの探求は、現象学という哲学をてがかりにICUで挿管中の患者にインタビューを実施し、患者の経験を質的に分析記述した研究1)となった。研究を通した患者さんとの出会いは、「どうすれば経口気管挿管中で声が出せない人工呼吸器装着患者の発話希求に看護師が気づくようになるか」の問いを生起させた。この探求と実現を目指すアクションリサーチ2)で、臨床教育プログラムの一つとしてHusserl(1929)の現象学を援用し、日常の実践場面で実施する“実践的エポケー”を開発した。実践的エポケーとは、挿管患者を担当中に看護師が担うすべてのケアや業務の手を止め、1分間、患者の関心にのみ注目する患者観察と、直後にその間の自身の行為、思考や感情の動きを他者に言語化するものである。これが「そこに看護は必要なケアを提供しているか」の問いに立ち返った看護師の実践の記述3)につながり、現象学と実践の接続の議論4)にもつながった。またアクションリサーチでは、患者アウトカムを調べるためにICU退室後の病棟患者約400名を訪床した。そこでの対話から立ち上がった問いは、ICU患者の記憶の研究5)につながった。
現在はICUの実践がいかに成り立つかや患者の重症化をいかに防ぐかの問いを探求している。いかに急変前に気付き、クリティカルケアが必要な患者を早期に専門家へつなぐか。要である病棟看護師の重荷を減らし、日々のケアとその力を最大限活用して実現するにはどうすればいいか。医療情報の専門家とITを活用し、電子カルテに入力されたバイタルサインデータを用いて自動で状態悪化を早期に捉えるEarly warning scoreを計算するアプリを開発した。ICUのCNSがEWSアプリで抽出した病棟のリスク患者をラウンドするCritical care outreachを導入し、効果を検討する研究からさらにその先の探求へと向かっている。 重要なことは、筆者にとって研究は実践と同様、決して一人では成し遂げられないということだ。出会う人とのつながりで成り立ち、それはかけがえのないものとなっている。当日はそれぞれの具体や研究プロセスのなかでの苦悩を共有したい。
1) DOI: 10.11153/jaccn.12.1_39
2) DOI: 10.1016/j.iccn.2018.10.006
3) DOI:10.18910/76184
4) https://clinicalphenomenol.wixsite.com/conference2019/blank-7
5) DOI: 10.1016/j.iccn.2020.102830
問いは患者さんとの出会いに始まる。重症患者の予後をよくする治療戦略として鎮痛を優先した鎮静管理が実践されるようになり、経口気管挿管中の人工呼吸器装着患者とコミュニケーションがとれるようになった。なったはずだった。しかし医療者主導で一方向性のコミュニケーションに編重している現状を目の当たりにした。予後をよくするEBMの実践は、当事者の患者にどう経験されているのか。そこに看護は必要なケアを提供しているか。その問いの探求は、現象学という哲学をてがかりにICUで挿管中の患者にインタビューを実施し、患者の経験を質的に分析記述した研究1)となった。研究を通した患者さんとの出会いは、「どうすれば経口気管挿管中で声が出せない人工呼吸器装着患者の発話希求に看護師が気づくようになるか」の問いを生起させた。この探求と実現を目指すアクションリサーチ2)で、臨床教育プログラムの一つとしてHusserl(1929)の現象学を援用し、日常の実践場面で実施する“実践的エポケー”を開発した。実践的エポケーとは、挿管患者を担当中に看護師が担うすべてのケアや業務の手を止め、1分間、患者の関心にのみ注目する患者観察と、直後にその間の自身の行為、思考や感情の動きを他者に言語化するものである。これが「そこに看護は必要なケアを提供しているか」の問いに立ち返った看護師の実践の記述3)につながり、現象学と実践の接続の議論4)にもつながった。またアクションリサーチでは、患者アウトカムを調べるためにICU退室後の病棟患者約400名を訪床した。そこでの対話から立ち上がった問いは、ICU患者の記憶の研究5)につながった。
現在はICUの実践がいかに成り立つかや患者の重症化をいかに防ぐかの問いを探求している。いかに急変前に気付き、クリティカルケアが必要な患者を早期に専門家へつなぐか。要である病棟看護師の重荷を減らし、日々のケアとその力を最大限活用して実現するにはどうすればいいか。医療情報の専門家とITを活用し、電子カルテに入力されたバイタルサインデータを用いて自動で状態悪化を早期に捉えるEarly warning scoreを計算するアプリを開発した。ICUのCNSがEWSアプリで抽出した病棟のリスク患者をラウンドするCritical care outreachを導入し、効果を検討する研究からさらにその先の探求へと向かっている。 重要なことは、筆者にとって研究は実践と同様、決して一人では成し遂げられないということだ。出会う人とのつながりで成り立ち、それはかけがえのないものとなっている。当日はそれぞれの具体や研究プロセスのなかでの苦悩を共有したい。
1) DOI: 10.11153/jaccn.12.1_39
2) DOI: 10.1016/j.iccn.2018.10.006
3) DOI:10.18910/76184
4) https://clinicalphenomenol.wixsite.com/conference2019/blank-7
5) DOI: 10.1016/j.iccn.2020.102830