第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY4] 一歩進んだPICSケア -患者が入院前の生活を取り戻すために私たちができること-

2022年6月11日(土) 13:10 〜 14:50 第8会場 (総合展示場 E展示場)

座長:木下 佳子(日本鋼管病院)
   卯野木 健(札幌市立大学)
演者:高橋 健二(山口県立総合医療センター)
   春名 純平(札幌医科大学附属病院)
   古厩 智美(さいたま赤十字病院 高度救命救急センターHCU)
   對東 俊介(広島大学病院 診療支援部リハビリテーション部門)
   江尻 晴美(中部大学生命健康科学部保健看護学科)

13:30 〜 13:50

[SY4-02] PICSメンタルヘルス障害に有効なケアはあるのか?

○春名 純平1 (1. 札幌医科大学附属病院)

キーワード:PICS

重篤な疾患にて集中治療の後、回復した患者の中には身体、認知、精神機能を生じたまま生活していることがある。このような集中治療後もなお続く身体、精神、認知機能障害のことを総称して、集中治療後症候群(post intensive care syndrome :PICS)と呼び、医療者の中でもよく認知されるようになってきた。その中でも、精神機能障害については、ICUサバイバーのうち約30%がうつと不安症状を有し、約20%の患者にPTSD症状が出現していることが報告されている。集中治療後の精神障害の予防と治療に関して、早期リハビリテーションやICUダイアリー、PICS外来、PICSに対する情報提供などが行われているが、未だ確証のある予防や治療の手段は確立していないのが現状である。 私たちにできるPICS対策として、まず重要なことはPICSのリスク因子を理解することが重要である。集中治療後の精神障害のリスク因子には、女性、若年、教育歴、うつや不安神経症の既往歴などがリスク因子であることが言われている。最近行われた本邦における集中治療後の精神障害のリスク因子に関する報告の中には、ICUへの緊急入室が独立したリスク因子であることが示された。こうした、PICSのリスク因子を正しく理解し、医療者の共通認識としておさえる必要があると考えられる。次にこれまで試されたネガティブな結果となっているPICS対策について再考してみる必要がある。例えば、ICUダイアリーについては2019年にJAMAで報告されたRCTがよく知られているが、IC U患者のICU退室後3ヶ月後の精神障害に効果がないことが示されている。しかし、この研究では、PTSDのリスクとして言われている妄想的な記憶がある患者、ない患者も一緒くたに評価されている。したがって、ICU患者に対して全く効果がないと結論づけるのは時期尚早かもしれない。また、近年ICU管理において一般的になってきた、ABCDEFGHバンドルについても、ケアを束にして行うことで、精神障害を予防する可能性も秘めている。 PICSについて正しく評価することも今後求められることであろう。現在、経時的にPICSについて調査している施設は少ないと思われるが、Hospital Anxiety and Depression Scale: HADSやImpact of Event Scale-Revised: IESRといった精神障害の一部を評価するためのツールは一般に公開されており、臨床現場でも評価が可能である。自施設の現状を理解することによって、より現実的なPICS対策が可能となるかもしれない。 本シンポジウムにおいては、PICSの現状、リスク因子、私たち看護師にできることについて最新の文献を用いながら考える機会としたい。