第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

重症患者看護

[O22] O22群 重症患者看護③

2019年10月5日(土) 11:00 〜 11:50 第8会場 (1F 中会議室102)

座長:背戸 陽子(日本医科大学付属病院 医療安全管理部)

[O22-3] 睡眠バンドルを導入し、睡眠状態の改善を図ることでせん妄悪化予防につながった症例

石川 凌弥, 中村 香代 (独立行政法人 国立病院機構 災害医療センター)

【はじめに】 
 ICU入室患者は睡眠障害を合併していることが多く、せん妄の発症・促進因子として指摘されておりその原因としては、ICU特有の音や光の環境因子が挙げられる。また、せん妄の発症は集中治療後症候群(以下PICSと称す)の要因となりICU入室患者の長期予後に大きく影響を及ぼすとされ、ICUにおいてせん妄に対し介入を行う必要性は非常に高いといえる。
 A氏は入院前より睡眠障害があったため睡眠導入剤を使用しており、今回の入院は夜間の転倒による頭部外傷であった。Maslowが提唱した欲求5段階説によると睡眠は生命を維持するために不可欠な生理的欲求であり、その欲求を満たすためにもA氏の睡眠に対して早期より焦点を当てて介入することは重要であった。Patelらが睡眠改善を目的に介入した睡眠バンドルを参考に積極的介入を行い、元々自宅で暮らしていたA氏がICU退室後も治療に支障が生じることなく自宅退院に至った症例を振り返り、睡眠バンドルの有用性について検討したことを報告する。
【目的】
 睡眠パターンの調整を目的とした睡眠バンドルの導入が、睡眠状態とせん妄悪化予防に及ぼした効果について検討する。 
【方法】
①Patelらが睡眠の改善を目的に介入した睡眠促進バンドルを参考にして睡眠調整を行った。
②CAM—ICU及びICDSCの使用により8時間ごとにせん妄評価を行い、睡眠状況や熟眠感の反応を確認した。
③得られた結果から睡眠状況とせん妄の関係について分析を行った。
【倫理的配慮】
 報告するにあたり個人が特定されないように配慮することを説明し、患者本人より了承を得た。著者は、eAPRIN研究者コースを終了している。(AP0000192578)
【事例紹介】
 A氏、70歳代男性、独居。入院前より睡眠障害があった。転倒による急性硬膜下血腫に対して開頭術後ICU入室。夜間せん妄が出現し、十分な睡眠を得られていなかった。元々、睡眠障害があることから睡眠パターンの調整を行い、せん妄の悪化を予防することで入院前の生活に戻ることができるよう介入する必要があった。
【結果】
 抜管日の夜間帯は不明言動やベッド柵を乗り越えようとする行動がみられ夜間帯はICDSCで7点、CAM—ICUでせん妄ありの評価であった。睡眠バンドルを使用しモニターの光やアラーム音、照明の調整を行った結果、夜間にまとまった睡眠がとれている様子が観察され熟眠感を得られたとの発言があった。せん妄評価としてはICDSCでは7点から確実に低下していき最終評価で2点、CAM—ICUではせん妄なしの評価で一般病棟へ転棟となった。その後、転院を介して自宅退院へと至った。
【考察】
 A氏は入院前より睡眠に対して問題を抱えており、ICUという環境において睡眠に焦点を当て早期より介入する必要があった。そこでPatelらの睡眠促進バンドルを参考に、環境要因の中で睡眠に与える影響が大きいとされる音と光の調整を重視した。効果が検証されている睡眠バンドルを参考にし、自宅での入眠環境にできるだけ近づけられるように意図的に介入することで、新たな睡眠障害の要因を軽減することができたと考えられる。また睡眠調整を実施しせん妄の悪化を予防できたことは、ICU退室後の長期予後にも影響を与えPICSの予防につながる一因になったと考える。ICUという環境の中で、せん妄に関して睡眠障害に焦点を当てて、睡眠バンドルを導入したことは有用であったと考える。