第21回日本救急看護学会学術集会

Presentation information

一般演題(口演)

チーム医療

[O25] O25群 チーム医療②

Sat. Oct 5, 2019 3:20 PM - 4:20 PM 第8会場 (1F 中会議室102)

座長:小笠原 美奈(秋田赤十字病院)

[O25-6] 患者・家族のニーズに即した救急医療の提供に向けて~多職種カンファレンス開催のタイミングに関する一考察~

辻 守栄1, 和住 淑子2 (1.千葉県救急医療センター, 2.千葉大学大学院看護学研究科附属看護実践研究指導センター)

【目的】脊髄損傷により重症肺炎を併発し救急搬送されたA氏は、経口気管挿管を拒否し、家族は、人工呼吸器治療の中止、気管切開の拒否の意向を示した。急性・重症患者看護専門看護師(以下CCNS)として、倫理調整等を行い、患者・家族が求める再生医療を目的とした転院を多職種チームにより実現できた。しかし、一方で倫理調整等に時間を要し、各職種が葛藤を抱きながら患者・家族と関わっていた。本事例を振り返り、よりよい多職種カンファレンス開催のタイミングについて分析し、考察したため報告する。
【方法】事例検討。分析の妥当性を高めるため、研究者とCCNS2名のスーパーバイズを受けた。
【倫理的配慮】B病院の研究倫理審査委員会承認後、患者の家族へ同意を得た。個人が特定されないよう配慮した。
【結果】事例概要:A氏70歳代男性。脊髄損傷の既往。診断名:肺炎。経過:リハビリ病院にて加療中。再生医療を受けるため転院予定であったが肺炎を発症し、酸素化が保てず救急医療を専門とするB病院へ急遽転院。病日2日)経口挿管、人工呼吸器管理開始。病日14日)家族より挿管・人工呼吸器治療の中止の意向が示される。病日16日)ミニトラックを挿入し抜管。病日22日)今後の転帰と治療の意向について患者の家族と多職種とでカンファレンスを実施。病日39日)再生医療を受けるため転院。タイミング1: B病院への転院目的の認識のずれが生じていた時 患者家族は、前医よりB病院への具体的な転院目的は説明されておらず、患者は転院を拒否したが、呼吸困難も強くなり、医師より説得される形でやむなく転院を了承した。また、B病院の医師・看護師は、患者家族も積極治療を受けることに同意していると捉えていた為、患者家族とB病院の医療者との間で転院目的の認識のズレが生じていた。タイミング2:患者が経口挿管を拒否した時 酸素化の維持が困難となり経口挿管、人工呼吸器治療の開始が必要とされたが、患者は拒否。医師との話し合いの結果、1~2日の短期間の治療ということで同意され治療を開始。その後、妻からの情報で以前から経口挿管や人工呼吸器等の延命治療は本人が拒否されていたこと、患者家族ともに再生医療の転院に間に合わせたいと考えていることが分かった。本人の価値・信念やリハビリ病院での闘病生活、患者自身の病気の受け止めについて妻から情報収集を行い、看護師と医師とで情報共有するまでに数日を要した。タイミング3:家族が治療の中止を希望した時 挿管・気管切開・人工呼吸器の装着はしたくないというA氏の事前の意思があり、家族より現行治療中止の意向が示された。ジョンセンの4分割シートを活用し、情報の整理と倫理的問題の明確化を行い、現行治療が成功する可能性を再評価する必要性があり、医師へ提案した。CT評価後、NPPV装着を前提に抜管となり、抜管当日、患者の意向を確認した。長期化する治療に家族、医療者ともに葛藤や困難感を抱えていた。
【考察】救急医療では、本事例のように医療者側が提案する救急医療と患者・家族が求める医療が一致しないケースが増えつつある。本事例では、3つのタイミングで多職種カンファレンスを実施することが、患者家族や医療者が抱える葛藤や困難感を最小限とし、早期から患者家族の医療ニーズに即した多職種チームでの医療提供が可能になると考える。本事例から状況に応じて、救命を優先とした医学モデル中心の救急医療から患者・家族の価値観を尊重した救急医療の提供へのパラダイムシフトが求められ、適切なタイミングで多職種カンファレンスを実施できる組織文化醸成の必要性が示唆された。