第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

メンタルヘルス

[O27] O27群 メンタルヘルス

2019年10月5日(土) 10:00 〜 11:00 第9会場 (1F 中会議室103)

座長:中野 英代(佐賀大学医学部附属病院)

[O27-2] ER型救急における軽症患者対応時の感情労働

藤本 佳奈, 石川 智己 (国家公務員共済組合連合会 枚方公済病院)

Ⅰ.目的

 A病院では「内科型ER救急」を掲げ24時間体制で救急初期診療を行っており、生命の危機に直面した患者への対応に追われる一方で、軽症患者にも対応している。そのため煩雑な状況下で緊急性の低い主訴や自己都合で来院する患者への対応に、重症患者対応時にはないジレンマを感じることがあった。   
 本邦においては今後、高齢化や医療ニーズの拡大により救急外来での軽症患者対応は増加すると予想される。そのため感情を調整して対応する感情労働が必要な場面も増え、ケアの質を維持するためには看護師の感情労働が1つの重要な要素であると考えた。本研究では、ER救急における軽症患者対応時の感情労働を明らかにすることを目的とする。

Ⅱ.用語の定義

 本研究での軽症患者はJTASによるトリアージレベルⅣ、Ⅴの患者とする。

Ⅲ.方法

 研究期間は2017年12月~2018年3月とする。A病院の救急外来専属看護師9名を対象に1名ずつ半構成面接を行った。内容は①軽症患者対応でストレスを感じる場面②①の対応時どのように感じたか③普段心がけている対応④やりがいを感じる時とした。対象者に許可を得て録音したデータを逐語録に起こし、感情労働を行っていると思われる部分を片山ら(2006)が開発した看護師の感情労働尺度の定義をふまえ感情労働因子別に分析した。 
 倫理的配慮として対象者に研究目的、方法、プライバシーの保護、参加の自由について書面を用いて説明し、回答をもって同意を得た。また同意はいつでも撤回できるようにした。

Ⅳ.結果

 ①ストレスを感じる場面は【待てなくてクレームを言う患者】【長々と話す患者】【精神疾患患者】【救急外来での対応が不適当と感じる患者】の対応時の4つの場面に分類された。②「緊急を要する患者がいる状況をなぜわかってくれないのか」「救急外来受診が必要なのか」などと感じながらも適切に対応していた(表出抑制)。③患者の苦痛に共感したり、不安が軽減できるよう笑顔で接しようとしていた(探索的理解)。④患者の満足や感謝の言葉にやりがいを感じていた。

Ⅴ.考察 

 ストレスを感じる場面でみられた「表出抑制」は「看護師においては最もストレスの高い内容の感情労働であり、心理的負担要因であると考えられる」と言われており、軽症患者対応のストレス要因となっていることが示唆された。救急外来を受診する患者の重症度は中等症以上であるという思い込みが、軽症患者の救急外来受診への疑問となりストレスとなっていた。しかしER救急を行っている以上軽症患者は一定数存在する。看護師のモチベーションが維持できるよう、病院内だけでなく地域における救急外来の役割を再認識することが必要である。「普段心がけている対応」では、患者に安心感を与えるため積極的に関わろうとする「探索的理解」がみられた。また患者に寄り添う気持ちを表現し、感謝や喜びなどの反応を得ることは看護師のやりがいに繋がっていた。看護師の笑顔や共感は患者の満足度に直結し、また看護のやりがいに繋がる。「探索的理解」を行える要因を明らかにし促進することが、ケアの質の向上に繋がると考える。

Ⅵ.結論

 看護師は待てなくてクレームを言う患者・長々と話す患者・精神疾患患者・救急外来での対応が不適当と感じる患者への対応の場面で、自分の本来の思いを隠して対応する感情労働(表出抑制など)を行いストレスを感じていた。
 しかし同時にこれらの患者に安心感を与えようと積極的に関わろうとする感情労働(探索的理解)も行っていた。