第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

精神的ケア

[O9] O9群 精神的ケア

2019年10月4日(金) 15:10 〜 15:50 第8会場 (1F 中会議室102)

座長:赤木 高司(京都保険会 京都民医連中央病院)

[O9-4] 高度救命救急センターにおける患者の権利擁護と救急看護師の役割ー新生児死亡を経験した褥婦への看護実践ー

久留 遼華, 佐々 智宏, 右近 清子 (広島大学病院高度救命救急センター)

【目的】
 常位胎盤早期剥離による出血性ショックからの母体救命、出生直後の新生児死亡および家族への看護実践を経験した。死亡した新生児への尊厳を含めた視点から、救急看護師が実践すべき権利擁護とグリーフケアの過程を明らかにする。

【方法】
1.事例紹介:A氏、30歳代、女性、緊急帝王切開術後
2.研究期間:2018年5月~10月
3.研究デザイン:事例検討
4.分析方法:新生児死亡を経験した褥婦Aの診療録、死亡した新生児とその家族の看護記録を元に振り返った

【倫理的配慮】
 広島大学病院看護部倫理審査委員会の承認を得て実施した。

【結果】
 A氏は、前医で常位胎盤早期剥離に対して緊急帝王切開術をうけ、B病院高度救命救急センター(以下、救命センター)へ入室となった。新生児は出生直後に死亡した。救急看護師は救命センター入室2日目に、A氏の妹へ今後の予定を確認すると、A氏に相談なく新生児は翌日に火葬される事が決定されていた。そのため、A氏へ新生児との面会希望の有無を家族が確認し、A氏は面会を希望した。そこで、他院に安置されていた新生児と対面するために、家族、産婦人科医師・救急科医師・救急看護師の多職種で移送や面会時間の調整を行った。面会決定後A氏へ気持ちを問うと、「涙が出る、でも、がんばる。ありがとう。」と、ジェスチャーを交えながら発言があった。
 翌日(火葬当日)、家族により前医で安置されていた新生児を移送し、救命センターの病室で抱っこや、新生児を中心に家族で写真撮影を行った。A氏は流涙しながら新生児を抱き、家族水入らずで最期のお別れ、悲しみの時間、穏やかな時間を持ちながら喪の作業を行った。A氏とその家族自身が十分に悲しめる環境が提供され、喪の過程を遅延なく進めることができた。

【考察】
 救急看護師は緊急度・重症度の高い患者の看護が求められる。母親の発言から救急看護師が入院中に死亡した新生児を一人の人間として尊重し、最期の家族の時間・空間をもてたことは心理的な回復力の一助になったと考えられる。また、死亡した新生児に対する看護として、この世に生を受けた一つの生命としての尊厳を守ることができた。
 母体救命時は医療が最優先される。しかし、救急看護師は、急性期であってもA氏の知る権利及び自己決定の権利を尊重し、その権利を擁護しなければならない。母体救急場面に従事する救急看護師は、常に母体と新生児、二つの命を預かり、その権利擁護者(アドボケイト)となり得る看護実践者であることが求められる。

【結語】
1.救急看護師は、周産期の死を体験した対象喪失から立ち直るための心理的過程を受けるための権利擁護とレジリエンスを獲得するためのグリーフケアの役割をもつ
2.亡くなった新生児の火葬までに残された時間も救急看護であるという看護の実践知を得た