第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(ラウンドテーブルディスカッション (RTD))

その他

[RTD12] RTD(CN)12群 その他②

2019年10月5日(土) 09:00 〜 10:20 RTD会場 (2F 国際会議室)

座長:石ヶ森 重之(日本医科大学多摩永山病院)

[RTD12-2] グラフィック・シラバスの手法を参考にした『救急外来チェックリスト(経験録)』運用後の実践報告

万波 大悟 (東邦大学医療センター佐倉病院)

【はじめに】
 日本看護協会は2016年に看護師のクリニカルラダーを公開した。これは看護師の実践能力の指標を可視化し、適切な評価によって質を担保していくことで、安全・安心な看護ケアを提供していくことを目的に開発されており、到達度によって一人ひとりの能力が示されるシステムである。二次救急医療機関であるA病院の救急病棟は、救急外来と救急病棟以外に化学療法室などのがん領域から内視鏡検査や血管内治療といった領域まで幅広く担うという特殊性がある。スタッフはローテーションしながら、日々異なる領域で勤務をするという背景の中、いわゆる経験録のような「救急外来チェックリスト」を作成し運用することで、実践能力の可視化や評価基準の一つとしてきた。しかし、文字だけで羅列されたチェックリストは分かりづらく、日々異なる領域で勤務するという背景もあるため、十分に活用されていなかった。そこで、基礎教育などで用いられているグラフィック・シラバスやカリキュラムマップの手法を参考に階層構造化したチェックリストを作成したので、その過程と運用後のアンケート評価を報告する。

【方法】
(新)救急外来チェックリスト運用までのプロセス
<Step1>現状分析(到達目標、スタッフのレディネスの分析や、各種ガイドライン、外部のクリニカルラダー、キャリアラダー、経験録などと照合しながら、スタッフやスペシャリスト、管理職と必要性や問題点などを検討した)<Step2>新チェックリスト作成(グラフィック・シラバスの手法に着目し試作品と試験運用を繰り返した) <Step3>運用開始 <Step4>運用後の評価 対象者:救急病棟の看護師35名 データの収集方法:アンケート 倫理的配慮:調査の同意やデータの取り扱いに関する文章をアンケート用紙に記載し、自由意思での参加とした。

【結果】
有効回答26名(回収率74.2%)
アンケート項目の「到達すべきスキルを把握するのに分かりやすい構成になっているか?」という設問に対しては、「そう思う」(73.1%)、「とてもそう思う」(7.7%)をあわせて80.8%のスタッフが表現や構成が分かりやすいと答えた。理由を自由記載で聞いたところ「全体像がわかりやすい」「次にどこを目指せばいいか分かる」「レベルに合わせた構成で分かりやすい」などが多かった。また、文字だけでなく全体像を可視化したチェックリストをどう思うか?という設問に対しても、「そう思う」(46.2%)、「とてもそう思う」(34.6%)という結果だった。一方で、「チェックリストを用いた指導をしているか」、「各勤務帯で使用したか?」という設問に対しては「全く無い」、「あまり無い」をあわせて60%以上を超えていた。

【考察】
 文字だけで構成されているチェックリストは学習者も、そして指導者もその解釈を一致させるには限界がある。今回、全体像を示した構成に変更し、各項目に必要なスキルを階層構造化したことで、救急領域におけるゴールの明確化や表現を分かりやすくするという目標は達成できたと考える。一方で、チェックリストを救急業務時に活用しているか?という設問には多くの看護師が活用できていないと回答していた。これは、日々異なる領域で勤務しているため実践の業務と乖離してしまい、活用する必要性を見出せなかったと考える。救急看護に必要なスキルの獲得には、救急領域での実践による経験学習が必須である。今後、チェックリストと業務の乖離を少なくしていきブラッシュアップを図っていくことで、各スタッフの学習に活用でき、獲得した能力を実感できるような教育ツールの一つとしていきたい。