第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(ラウンドテーブルディスカッション (RTD))

災害・トリアージ

[RTD3] RTD(CN)3群 災害・トリアージ

2019年10月4日(金) 15:10 〜 16:10 RTD会場 (2F 国際会議室)

座長:角 由美子(名古屋第二赤十字病院 医療安全推進室)

[RTD3-2] 呼吸器症状をきたした新生児の院内トリアージ -「小児初期評価の3要素」における重症度評価の比較-

北川 誠也 (地方独立行政法人 佐賀県医療センター好生館 救命救急センター)

【目的】
 小児の院内トリアージは、JTASの小児初期評価の3要素(以下、PAT)を指標に第一印象の重症感を評価する。これまでにPATの段階で低緊急と判定したが、待機中に状態が悪化し、最終的に緊急度があがった症例を経験した。小児は年齢・発達の程度により、解剖学的・生理学的な機能が異なり、免疫能の獲得過程であるため、感染症にかかりやすく、重篤化しやすい。そのため、症状や重篤化する兆候を見逃すことは生命が危機的状況に陥る可能性を高める。今回の対象患児においてもPATでは低緊急と判定したが、バイタルサイン・身体所見・問診をふまえると最終的な緊急度は緊急であった。そのため、新生児のトリアージ1症例からPATとレスビネットスケール(呼吸困難、呼吸回数、無呼吸、外観、食欲、医療介入、熱の評価をスコアリング)を用いた重症度評価の比較を行った。

【方法】
対象:呼気性喘鳴を症候に来院した生後17日の女児(以下、児)
研究方法:PATとレスビネットスケールを用いた重症度評価の比較
倫理的配慮:個人を特定することがないよう、ロック付きUSBを使用しデータ管理を行う

【結果】
 児のPATに沿った評価では、外観は啼泣が弱い印象を受けたが可視範囲内の呼吸状態の変化はなかった。循環も顔色は良好で、末梢皮膚は暖かい状態であり、PATでは明らかな重症感は認めず、緊急性はないと評価した。しかし、PATの評価に続き、RR:63回/分、SpO2:92%、体温:38.0℃、呼気性喘鳴の聴取、胸骨下に陥没呼吸、前日にRSVに罹患し、哺乳量が低下しているといった所見や情報を統合すると、緊急度判定は緊急となった。
 次に、PATの評価と同様に医療器具を使用せず急性期呼吸器感染症を疑う患児を客観的に分類するレスビネットスケールを用いて評価した場合、中等度の重症度であった。レスビネットスケールの評価項目の内、第一印象の重症感を評価できる項目は呼吸困難、呼吸回数、無呼吸、外観のみである。児に対し、4項目のみ評価を行っても高い値を示し、重症感は高い状態であった。

【考察】
 児の小児トリアージプロセス全体を通して、体温38℃以上、咳嗽、頻呼吸、啼泣の変化、食欲低下、呼吸様式に変化を呈していたため、緊急性は高い状態であった。小児の重症感染症の80%は肺炎といわれ、RSVは肺炎を引き起こす重要な原因である。先行研究では、肺炎を来している場合の随伴症状として、体温37.5℃以上、頻呼吸40回/分以上は肺炎を診断する上で関連性は低いといわれ、SpO2≦96%、呼吸仕事量の増加は肺炎を罹患している際の随伴症状として関連性が強いと報告されている。児はRSVに罹患し、RSVに伴う肺炎と細気管支炎は区別が困難であり、肺炎は細気管支炎よりも重症度が増す。他の研究報告では発熱、咳嗽の持続時間、または性質、SpO2と肺炎との関連性はないと報告され、上記の研究報告と併せSpO2>96%以上を有していれば肺炎を来している可能性は低いと考えられる。そのため、児は肺炎に罹患している可能性が高く、重症度は高い状態であった。
 この結果からPATでは明らかな重症感がない患児であっても、レスビネットスケールを使用することは急性呼吸器感染症患者を見逃すことなく、緊急度判定を行うことができる。そのため、急性呼吸器感染症疾患を疑う際、PATの評価に加え、早期に食欲変化の聴取、体温測定を実施する意義があると考える。以上より、小児トリアージプロセスにおけるレスビネットスケールの活用は、重症化しうる急性呼吸器感染症の患児の緊急度判定を行う上で一つの視点になると考える。