第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY5] 経験から学び実践する大災害への備え

2019年10月5日(土) 14:40 〜 16:30 第1会場 (2F コンベンションホールA)

座長:佐々木 吉子(東京医科歯科大学大学院), 安彦 武(東北大学病院)

[SY5-2] 熊本地震を経験して 基幹災害拠点病院として急性期看護を提供するために

赤池 尋恵 (熊本赤十字病院)

熊本赤十字病院(以下、当院)は、熊本県の基幹災害拠点病院として熊本県内の災害医療の要としての役割を担い、常備救護班の設置、災害に関する研修や訓練、マニュアルの見直しなど、平時から災害対応策の整備を行っている。職員は各種災害に備え、研修や訓練に参加して、そこで学ぶ事柄の一つ一つを、もしもの時の「出動」への心構えとしていた。2011年の東日本大震災における救護活動の経験から、当院も被災した場合を想定しての多数傷病者の受け入れ訓練や、マニュアル見直しが必要であることを実感し、受け入れ側の体制強化を図っていた。そのような中、2016年4月14日と16日に二度にわたる震度7の地震が発生し、当院は震源地に最も近い災害拠点病院として発災直後から多くの傷病者を受け入れた。
災害時の対応能力を高めるために行われる訓練は、現場での救護活動や傷病者受け入れの窓口となる救命救急センターでの対応を想定して行われることが多い。当院の「多数傷病者受け入れ訓練」も、救命救急センター内に各エリアを立ち上げ、必要な処置を行い入院病棟へ引き継ぐという内容で行っていた。
 前震ではマニュアル通り救命救急センター内に各診療エリアを立ち上げ、発災直後から傷病者を受け入れた。訓練の経験が活かされ、救命救急センター、病棟の災害医療は順調に機能し、平時の訓練の大切さを実感した。本震では救命救急センターが入る救急棟が停電し、救命救急センターでの診療は困難となり、各診療エリアを病院本館の廊下へ移動して対応した。余震が続く中、前震より多くの傷病者を受け入れることとなったが、各診療エリアで発生した問題や情報は診療統括班に集約されるような体制が出来ていたため、それぞれの問題を解決しながら、診療統括班を中心に各診療エリアでの医療を進めることができた。災害カルテの運用や患者情報の出口管理について、本震の際は、前震の反省を踏まえた運用がなされていた。これは訓練等を通してPDCAサイクルを回すことを意識づけられていたためだと考える。
 今回の地震では当院も被害を受け、マニュアルにない対応が必要になった。平時の備えとして各種の訓練を重ねていたことで、臨機応変な対応ができたものもあるが、建物やインフラがダメージを受ける中で多数の傷病者受け入れを見越した見直しが必要であるこが明らかとなった。その中の一つは入院後の患者管理であり、保存的加療の方針で入院した患者の主治医未決定、入院指示がないなどの問題が発生していた。入院治療を要する場合、その後の継続的な診療について中長的な対応を考える必要があり、その役割を誰が担うのかなどマニュアルの改訂を行っている。被災経験からの学びは多く、これらを基にマニュアルの改訂、訓練での検証を重ね、災害拠点病院としての役割を担っていかなければならない。災害訓練やマニュアルの検証は災害対応作業部会を中心に行っているが、作業部会の活動や災害対応訓練等について紹介し、災害体制構築および強化について検討できればと考える。