第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 1.救急外来看護④

[OD104] 1.救急外来看護④

[OD104-01] 救急外来における生活困窮者への看護介入の必要性に関する文献検討

○伊澤 綾子1、橋本 詩織2、永田 絵理香3、伊能 美和4、吉田 澄恵4 (1. 医療法人伯鳳会東京曳舟病院、2. 武蔵野赤十字病院、3. 東京歯科大学市川総合病院、4. 東京医療保健大学千葉看護学部)

キーワード:救急外来看護、生活困窮者、セルフケア

目的
 救急外来を繰り返し受診する患者には、生活困窮者自立支援法でいう生活困窮者、即ち『現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持できない恐れのある者』が一定数存在する。しかし、彼らに対する救急外来看護は明らかにされていない。そこで本研究では生活困窮者に関する原著論文から、救急外来での看護介入の必要性を考察した。
方法
 医中誌Web版にて「生活困窮者」で2015年~2020年の原著論文を検索し該当した18文献を全て精読した。生活困窮者の状況を示す表現を抽出し、オレムのセルフケア要件(以下< >で示す)で分類した。その後このような生活困窮者が救急外来を受診した際に、その状況にどう介入するか考察した。倫理的配慮として、文献レビューにあたり著作権侵害のないよう配慮した。
結果
 18文献から、生活困窮者の状況を示す表現として「望ましくない栄養状態にある」「ストレスに脆弱」「精神疾患を伴わないひきこもりに関してはひきこもりそのものが生活困窮である」等73の記述が抽出された。これらをオレムのセルフケア要件で分類したところ、<普遍的セルフケア要件>には「独居または頼れる親族が不在」「路上生活者」等<孤独と社会的相互作用のバランスの維持>や<正常さの促進>に該当する内容が含まれた。<発達的セルフケア要件>には「制度や空間、家族・職域等さまざまな『つながり』から排除された人々」「経済的困難」「最低限のライフラインが保障されていない世帯」等が含まれた。<健康逸脱に対するセルフケア要件>には「適切な健康管理が必要な慢性疾患を抱えている」「好ましくない健康習慣をもつ者」「救急車の頻回利用」等が含まれた。そこから生活困窮者が救急外来を受診した際の看護介入を検討した結果【救急外来での介入】【入院等の介入】【専門的な介入】【医療介入非該当】に分類できた。【医療介入非該当】が大半だったが、【救急外来での介入】には救急外来で問題を把握したり指導的に関われる内容が含まれた。
考察
 <普遍的セルフケア要件>及び<発達的セルフケア要件>に分類された生活困窮者の状況から、彼らは社会との関わりに希薄さを抱えているとわかった。このような生活困窮者にとって救急外来受診は社会と関わる為のセルフケアの1つと捉えられる。<健康逸脱に対するセルフケア要件>に分類された状況で【救急外来での介入】に該当するものには「生活習慣の乱れなど健康問題がある」「疾病予防の必要なハイリスクアプローチの対象」等救急外来で医療ニーズを掴めるものや、「好ましくない健康習慣をもつ者が多い」「慢性疾患を悪化させる可能性が高い」等療養指導を行えるものもあるが、「公的支援の認知度が低い」等ソーシャルワーカーとの連携を不可避とするものもみられた。ただし、緊急度や重症度を優先させる救急外来の限られたマンパワーで密な関わりを持ち具体的に介入する事は困難を伴う。しかし今回の文献検討で、生活困窮者はオレムのセルフケア要件に分類できる看護ニーズを有する事が明らかとなった。ソーシャルワーカーが救急外来に出向き援助を実施した事例における援助内容は「家族(親族)探し」「医療費の問題解決」「地域の保健医療福祉機関との連携」等福祉的支援を含み(天野2012)、これら援助は看護師も行える事から、救急外来看護では福祉への橋渡しの実践が必要である。
 「援助を必要としている患者を見捨てない最後の砦」(山口2018)として生活困窮者へ看護ケアを検討し、継続的に関わろうとする事は彼らに不足したセルフケアへの介入であり、救急外来看護として意義があるといえる。