第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [指定演題] » パネルディスカッション

[PD1] [パネルディスカッション1] 守れ!新型コロナウイルス感染患者と対応に従事する医療者のメンタルヘルス

2021年10月23日(土) 11:00 〜 12:30 ライブ1

座長:守村 洋(札幌市立大学)、立野 淳子(小倉記念病院看護部クオリティマネージメント科)

11:25 〜 11:50

[PD1-05] 正解のない問題に対処する医療者のために
〜ネガティブ・ケイパビリティに着目して〜

○上村 恵一1 (1. 国家公務員共済組合連合会 斗南病院 精神科)

キーワード:メンタルヘルス、COVID-19感染症、ネガティブ・ケイパビリティ

COVID-19パンデミックは悲しみの通常の経験を混乱させ、医療者が悲しみを支援するためのアプローチの修正を余儀なくされた。多くの入院患者では、COVID-19の診断にかかわらず、面会は制限あるいは禁止されている。遺族は、葬儀を延期、大切な家族との別れを遠隔地で行うことを余儀なくされるなどの影響がある。また、家族の存在を感じることが無いまま亡くなっている患者が多くいる。

本セッションでは、医療者がパンデミックに関連した悲しみの重要な側面、アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)、質の高いコミュニケーション、提供者のセルフケアの重要な実践がどのように悲しみを軽減するのかを概説したい。

予期悲嘆とは、死が予想されたときに患者や家族に起こる通常の喪に関連した現象である。しかし、現在、医療従事者は前例のない速度で死を経験する。病院やその他の施設では、訪問者の物理的な立ち会いを制限、禁止している。全国調査では、死が迫った患者が生前に家族に「さよなら」を言うことができないことはより多くの複雑性悲嘆を家族に生じさせてしまうことが報告されている。さらに、死への準備不足が複雑性悲嘆と死亡後のうつ病を予測していることが示されているが、まさにCOVID-19パンデミックにおいて直面する状況と一致していると考える。

本パンデミックにおいて医療者は、正解のない問題に対処する場面を多く経験する。ネガティブ・ケイパビリティとは、「論理を離れた、どのようにも決められない、宙ぶらりんの状態を回避せず、耐え抜く能力」と定義されている。私たちは、困難な課題に直面すると正解を求めようと不安になる。不確定で正解がわからない問題に、安直に正解を求めようとうせず、つき合っていく能力が必要になる。専門家でも意見が割れており、何が正解かわからないこの状況では、まさにネガティブケイパビリティが必要であることは間違いない。病院内においても、正解を突き詰めることを追求しすぎることで不和を生むことは効率的ではないことが明らかにされているだろう。

一方で、ネガティブ・ケイパビリティを手軽に身につける方法は存在しない。同名タイトル書籍の著者である帚木は「この宙ぶらりんの状態をそのまま保持し、間に合わせの解決で帳尻を合わせず、じっと耐え続けていくしかありません。耐えるとき、これこそがネガティブ・ケイパビリティだと、自分に言いきかせます。すると、耐える力が増すのです。」と書いている。辛い鍛錬になるが、このような概念を知ることこそがレジリエンスに大きく影響し、結果として医療者のメンタルヘルスにとって重要な視点であると推測される。