一般社団法人日本鉱物科学会2019年年会・総会

セッション情報

受賞者講演

2018年度日本鉱物科学会賞第21回受賞者 山崎 大輔会員(岡山大学)

受賞題目:「構成物質のレオロジーに基づく核・マントルのダイナミクスの研究とそのための高圧実験技術開発」

2019年9月21日(土) 10:45 〜 11:15 大講義室 II (大講義室)

受賞理由

山崎大輔会員は、超高圧発生装置を用いた実験的研究に基づき、主に高温高圧下における鉱物の塑性変形機構を明らかにし、マントルの流動特性の理解に大きく貢献する優れた研究成果を挙げてきた。これら一連の研究成果は、地球深部における物質の状態やダイナミクスを論じる上で重要な知見を与えるとして、国際的に高く評価されている。以下に受賞対象となった研究の概要を記す。
1)超高圧発生技術開発
大きな地震波速度異常と異方性が観測されるマントル最下部の構成物質の流動則の解明は、全マントルダイナミクスを理解する上でも重要である。山崎会員は焼結ダイヤモンドを用いたマルチアンビル高圧発生実験の技術開発に長年尽力し、近年、マントル最下部に相当する120 GPaの高圧発生に世界で初めて成功した。この技術によって、マントル最下部に存在すると予想されるポストペロブスカイト(pPv)の実験的研究の幅が大きく広がる可能性が出てきた。また、下部マントル条件下で差応力を発生させる高圧装置の開発にも成功し、下部マントル条件での変形実験を可能にした。
2)二相構成物の流動則
マントル遷移層の主要構成鉱物であるリングウッダイト(Rw)は、下部マントル条件においてはブリッジマナイト(Brg)とフェロペリクレス(fPc)に分解相転移する。これら二相構成物における各結晶相の粒成長速度を測定し、地質学的時間スケールでは、Brg-fPc界面での拡散クリープによって下部マントルが流動することを明らかにした。さらに、沈み込む低温のスラブにおいては、少量存在するfPcが岩石全体の流動を支配する可能性が高いことも指摘した。
3)鉄高圧相のレオロジー
地球の内核は六方晶鉄で構成されると考えられているが、東西半球で六方晶鉄の結晶粒径に大きな差があることが地震学的研究から示唆されている。山崎会員は自ら技術開発を重ねた焼結ダイヤモンドを用いたマルチアンビル高圧実験によって六方晶鉄の粒成長速度を測定し、内核東西での結晶粒径差が西から東への流動モデルでは説明できないことを明らかにし、内核の進化を議論する上での重要な知見を与えた。
4)その他の下部マントルに関する研究
下部マントルの主要構成相であるBrg中のSi拡散係数を測定し、流動則とその温度・圧力・含水量依存性を決定した。また、Brgの変形実験を行い、沈み込んだスラブの流動特性が地震学的観測から予想されるモデルに矛盾しないことを突き止めた。さらに、RwとBrgの転位回復実験によって、マントル遷移層が水に飽和していることも明らかにしている。一方、マントル最下部に存在すると予想されるpPvにおいても、アナログ物質を使った変形実験を実施し、D”層の地震波異方性のメカニズムについて詳しく説明している。
このように、山崎会員は独自の創意工夫と粘り強い努力によって高圧実験技術を格段に進歩・発展させ、その技術開発を通してマルチアンビル実験では未踏であった圧力領域へのアクセスを可能とした。そして特に下部マントルのレオロジー研究において他の研究者が得たくても得られなかった多くの優れた実験結果を出版し、地球内部の構造と進化、ダイナミクスの理解に多大な貢献を果たしている。よって山崎会員は日本鉱物科学会賞の候補者として相応しいと判断され、ここに推薦する。

主要論文
1. Yamazaki, D., Ito, E., Yoshino, T., Tsujino, N., Yoneda, A., Gomi, H., Vazhakuttiyakam, V., Sakurai, M., Zhang, Y., Higo, Y., Tange, T. (2019 in press) High-pressure generation in the Kawai-type multianvil apparatus equipped with tungsten-carbide anvils and sintered-diamond anvils, and X-ray observation on CaSnO3 and (Mg,Fe)SiO3. Comptes Rendus Geoscience.
2. Fei, H., Yamazaki, D., Sakurai, M., Miyajima, N., Ohfuji, H., Katsura, T., Yamamoto, T. (2017) A nearly water-saturated mantle transition zone inferred from mineral viscosity. Science Advances, 3, e1603024.

3. Yamazaki, D., Tsujino, N., Yoenda, A., Ito, E., Yoshino, T., Tange, Y., Higo, Y. (2017) Grain growth of ε-iron: Implications to grain size and its evolution in the Earth's inner core. Earth Planet. Sci. Lett., 459, 238-243.
4. Tsujino, N., Nishihara, Y., Yamazaki, D., Seto, Y., Higo, Y., Takahashi, E. (2016) Mantle dynamics inferred from the crystallographic orientation of bridgmanite. Nature, 539, 81-84.
5. Yamazaki, D., Yoshino, T., Nakakuki, T. (2014) Interconnection of ferro-periclase controls subducted slab morphology at the top of the lower mantle. Earth Planet. Sci. Lett., 403, 352–357.
6. Yamazaki, D., Ito, E., Yoshino, T., Tsujino, N., Yoneda, A., Guo, X., Xu, F., Higo, Y., Funakoshi, K. (2014) Over 1 Mbar generation in the Kawai-type multianvil apparatus and its application to compression of (Mg0.92Fe0.08)SiO3 perovskite and stishovite. Phys. Earth Planet. Inter., 228, 262–267.
7.Yamazaki, D., Yoshino, T., Ohfuji, H., Ando, J., Yoneda, A. (2006) Origin of seismic anisotropy in the D" layer inferred from shear deformation experiments on post-perovskite phase. Earth Planet. Sci. Lett., 252, 372-378.
8.Yamazaki, D., Karato, S. (2001) Some mineral physics constraints on the rheology and geothermal structure of Earth's lower mantle. Am. Mineral., 86, 385-391.
9.Yamazaki, D., Kato, T., Yurimoto, H., Ohtani, E., Toriumi, M. (2000) Silicon self-diffusion in MgSiO3 perovskite at 25 GPa. Phys. Earth Planet. Inter., 119, 299-309.
10.Yamazaki, D., Kato, T., Ohtani, E., Toriumi, M. (1996) Grain growth rates of MgSiO3 perovskite and periclase under lower mantle conditions. Science, 274, 2052-2054.

受賞者講演(山崎大輔会員) (10:45 〜 11:15)

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