一般社団法人日本鉱物科学会2019年年会・総会

セッション情報

受賞者講演

2018年度日本鉱物科学会研究奨励賞第25回受賞者 吉村俊平会員 (北海道大学)

研究対象:「火山噴火現象の実験的・理論的研究」

2019年9月21日(土) 11:20 〜 11:40 大講義室 II (大講義室)

受賞理由:
 吉村俊平会員は,火山の噴火現象に関わる様々なプロセスを対象に,主に実験的・理論的手法に基づいた研究を進め,数多くの顕著な研究成果を挙げてきた.例えば,マグマの開放系脱ガスについての研究では,流紋岩ガラスを加熱発泡させる実験を行い,発泡したマグマ中ではマグマの脱水と気泡の溶解が組み合わされた拡散脱ガスが進行すること,そしてマグマ中に形成される開放的クラックの周囲では気泡を含まないメルト層が形成されることを見出した.この結果に基づき,成因(特に気泡を含まない特徴)が未解明であった黒曜石について,拡散脱ガスがその形成に重要な役割を果たしていた可能性を提示した.
さらにマグマの脆性破壊面における焼結メカニズムの解明にも貢献した.この研究では,接触並置した含水流紋岩質ガラスを加熱する実験を行い,焼結過程を温度の関数として定式化した.その結果,焼結時間は火山性地震の周期にほぼ一致することを示し,火山性地震がマグマの破壊・焼結の繰り返しで生じているとの仮説を裏付けた.
また,近年多くの火山で観測されている,マグマとCO2流体との相互作用の詳細な過程を調べるための実験的・理論的研究を進めた.この研究では,水熱合成装置を用いてCO2流体とメルトの化学的相互作用を再現する実験を行い,水に富むメルトにCO2に富む流体が接触するとメルトが脱水して流体の体積分率が急上昇する現象を見出した.このことから,CO2に富む少量の流体が水に富むマグマ溜りに導入されることでマグマの密度が劇的に低下し,噴火が引き起こされる可能性が示された.また,マグマ供給系におけるCO2流体の輸送モデルを構築し,火山噴出物の分析に基づいて火山からのCO2放出量を定量化する新しい方法を提案した.
最近では,爆発的噴火から非爆発的噴火への遷移プロセスを明らかにするために,メルト中の拡散が適度に遅い塩素に着目し,新島の流紋岩試料を対象に塩素濃度分布を詳しく解析した.その結果,発泡したマグマが流動する際に気泡同士が連結して長い通路を作り,そしてガスの移動後に通路が潰れて気泡を含まないマグマに変化するという過程が繰り返し起きていた痕跡が見出された.この発見により,実験的に提案されていた,気泡同士の合体で形成された通路が脱ガスに重要な役割を果たし,上昇中のマグマの爆発性が次第に失われていく,という概念が実証された.
吉村会員の研究は全て,火山噴火の諸現象の解明における着眼点の独創性,創意工夫に満ちた実験装置や実験システムの構築,そして天然試料や実験試料に対する卓越した洞察力でもって成し遂げられてものであり,これらの研究が当該分野へ与えたインパクト,貢献ともに非常に大きく,日本鉱物科学会研究奨励賞受賞者として相応しいと考え,ここに推薦する.

1. Yoshimura, S., Kuritani, T., Matsumoto, A., Nakagawa, M. (2019) Fingerprint of silicic magma degassing visualised through chlorine microscopy. Scientific Reports 9, 786, doi:10.1038/s41598-018-37374-0
2. Yoshimura, S. (2018) Chlorine diffusion in rhyolite under low-H2O conditions. Chemical Geology 483, 619-630.
3. Yoshimura, S., Nakamura, M. (2013) Flux of volcanic CO2 emission estimated from melt inclusions and fluid transport modelling. Earth and Planetary Science Letters 361 497-503.

受賞者講演(吉村俊平会員) (11:20 〜 11:40)

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