一般社団法人日本鉱物科学会2019年年会・総会

セッション一覧

2019年9月21日(土)

13件中 (1 - 10)

  • 受賞者講演

2018年度日本鉱物科学会賞第20回受賞者 野口高明 会員(九州大学)

受賞題目:「原始太陽系における物質進化に関わる岩石鉱物学的研究」

2019年9月21日(土) 10:15 〜 10:45 大講義室 II (大講義室)

受賞理由

 野口高明会員は大学院時代より隕石の岩石学的研究に着手し、透過電子顕微鏡を使った鉱物学的な研究手法を習得した。さらに、世界に先駆けて地球外物質試料の超薄切片作成法の開発にも共同研究者とともに尽力した。その結果、薄片スケールの岩石鉱物学的特徴からナノメートルスケールの微細構造までの観察を一連のものとして取り扱う電子顕微鏡岩石学とも呼べる手法を使って研究を進めてきた。1990年代後半からは、こうして独自に確立した手法・技術を駆使し、電子顕微鏡を用いた宇宙塵の岩石学的研究を開始し、微小地球外物質の研究を牽引してきた。近年では、探査機「はやぶさ」の回収試料をはじめとする多くの地球外由来の試料の記載研究を推し進め、国際的に高い評価を得ている。また、自身で開発・改良した観察試料作成法を他大学の学生などへも教授するなど、電子顕微鏡を用いた隕石の岩石鉱物学的研究の普及と発展に大きく貢献している。以下に受賞対象となった研究の概要を記す。
1)地表における彗星塵の発見
南極の表層雪中に宇宙塵が含まれていることを示した。そのような宇宙塵の中には、NASAが成層圏から回収した彗星塵と同様の物質が含まれていることを明らかにした。この発見は宇宙塵のサンプリング方法に大きな変革をもたらし、現在も国立極地研究所の南極観測プロジェクトとして宇宙塵研究を継続している。
2)南極宇宙塵の鉱物学と有機物の研究
上記の彗星塵にはGEMSと呼ばれる特徴的な物質がある。この物質は大きさ数百ナノメートルの非晶質ケイ酸塩微粒子で、金属鉄、硫化鉄そして有機物を含む。このような宇宙塵から水質変成作用の組織を見出し、彗星に似た天体において氷が融解することによる水質変成作用の進行過程を提案し、共存する有機物の特徴を明らかにした。
3)イトカワ粒子の宇宙風化の研究
探査機「はやぶさ」によってイトカワから回収された微粒子試料の特徴について、透過電子顕微鏡で検討した。その結果、粒子の表面組織に太陽風による照射損傷組織があることを見出し、イトカワ試料に宇宙風化の痕跡が認められることを示した。
4)炭素質コンドライト隕石の分類学的研究
CRコンドライトのコンドリュールの縁にシリカ鉱物を含む分別凝縮物の付着物を発見するなど、隕石の分類学上重要な成果を挙げている。また、世界中で読まれている隕石関係の書籍を分担執筆するなど、隕石分類学における貢献は大きい。
 このように野口会員は、地球外に由来する貴重な研究試料を調べるために独自の手法開発や技術改良に取り組み、精力的な記載研究を通して多くの新知見を得てきた。また、多数の共同研究を通じて宇宙鉱物学分野の活性化や若手育成にも大きく貢献されている。以上から野口会員は日本鉱物科学会賞の候補者として相応しいと判断され、ここに推薦する。

  • 受賞者講演

2018年度日本鉱物科学会賞第21回受賞者 山崎 大輔会員(岡山大学)

受賞題目:「構成物質のレオロジーに基づく核・マントルのダイナミクスの研究とそのための高圧実験技術開発」

2019年9月21日(土) 10:45 〜 11:15 大講義室 II (大講義室)

受賞理由

山崎大輔会員は、超高圧発生装置を用いた実験的研究に基づき、主に高温高圧下における鉱物の塑性変形機構を明らかにし、マントルの流動特性の理解に大きく貢献する優れた研究成果を挙げてきた。これら一連の研究成果は、地球深部における物質の状態やダイナミクスを論じる上で重要な知見を与えるとして、国際的に高く評価されている。以下に受賞対象となった研究の概要を記す。
1)超高圧発生技術開発
大きな地震波速度異常と異方性が観測されるマントル最下部の構成物質の流動則の解明は、全マントルダイナミクスを理解する上でも重要である。山崎会員は焼結ダイヤモンドを用いたマルチアンビル高圧発生実験の技術開発に長年尽力し、近年、マントル最下部に相当する120 GPaの高圧発生に世界で初めて成功した。この技術によって、マントル最下部に存在すると予想されるポストペロブスカイト(pPv)の実験的研究の幅が大きく広がる可能性が出てきた。また、下部マントル条件下で差応力を発生させる高圧装置の開発にも成功し、下部マントル条件での変形実験を可能にした。
2)二相構成物の流動則
マントル遷移層の主要構成鉱物であるリングウッダイト(Rw)は、下部マントル条件においてはブリッジマナイト(Brg)とフェロペリクレス(fPc)に分解相転移する。これら二相構成物における各結晶相の粒成長速度を測定し、地質学的時間スケールでは、Brg-fPc界面での拡散クリープによって下部マントルが流動することを明らかにした。さらに、沈み込む低温のスラブにおいては、少量存在するfPcが岩石全体の流動を支配する可能性が高いことも指摘した。
3)鉄高圧相のレオロジー
地球の内核は六方晶鉄で構成されると考えられているが、東西半球で六方晶鉄の結晶粒径に大きな差があることが地震学的研究から示唆されている。山崎会員は自ら技術開発を重ねた焼結ダイヤモンドを用いたマルチアンビル高圧実験によって六方晶鉄の粒成長速度を測定し、内核東西での結晶粒径差が西から東への流動モデルでは説明できないことを明らかにし、内核の進化を議論する上での重要な知見を与えた。
4)その他の下部マントルに関する研究
下部マントルの主要構成相であるBrg中のSi拡散係数を測定し、流動則とその温度・圧力・含水量依存性を決定した。また、Brgの変形実験を行い、沈み込んだスラブの流動特性が地震学的観測から予想されるモデルに矛盾しないことを突き止めた。さらに、RwとBrgの転位回復実験によって、マントル遷移層が水に飽和していることも明らかにしている。一方、マントル最下部に存在すると予想されるpPvにおいても、アナログ物質を使った変形実験を実施し、D”層の地震波異方性のメカニズムについて詳しく説明している。
このように、山崎会員は独自の創意工夫と粘り強い努力によって高圧実験技術を格段に進歩・発展させ、その技術開発を通してマルチアンビル実験では未踏であった圧力領域へのアクセスを可能とした。そして特に下部マントルのレオロジー研究において他の研究者が得たくても得られなかった多くの優れた実験結果を出版し、地球内部の構造と進化、ダイナミクスの理解に多大な貢献を果たしている。よって山崎会員は日本鉱物科学会賞の候補者として相応しいと判断され、ここに推薦する。

  • 受賞者講演

2019年9月21日(土) 11:20 〜 11:40 大講義室 II (大講義室)

受賞理由:
 吉村俊平会員は,火山の噴火現象に関わる様々なプロセスを対象に,主に実験的・理論的手法に基づいた研究を進め,数多くの顕著な研究成果を挙げてきた.例えば,マグマの開放系脱ガスについての研究では,流紋岩ガラスを加熱発泡させる実験を行い,発泡したマグマ中ではマグマの脱水と気泡の溶解が組み合わされた拡散脱ガスが進行すること,そしてマグマ中に形成される開放的クラックの周囲では気泡を含まないメルト層が形成されることを見出した.この結果に基づき,成因(特に気泡を含まない特徴)が未解明であった黒曜石について,拡散脱ガスがその形成に重要な役割を果たしていた可能性を提示した.
さらにマグマの脆性破壊面における焼結メカニズムの解明にも貢献した.この研究では,接触並置した含水流紋岩質ガラスを加熱する実験を行い,焼結過程を温度の関数として定式化した.その結果,焼結時間は火山性地震の周期にほぼ一致することを示し,火山性地震がマグマの破壊・焼結の繰り返しで生じているとの仮説を裏付けた.
また,近年多くの火山で観測されている,マグマとCO2流体との相互作用の詳細な過程を調べるための実験的・理論的研究を進めた.この研究では,水熱合成装置を用いてCO2流体とメルトの化学的相互作用を再現する実験を行い,水に富むメルトにCO2に富む流体が接触するとメルトが脱水して流体の体積分率が急上昇する現象を見出した.このことから,CO2に富む少量の流体が水に富むマグマ溜りに導入されることでマグマの密度が劇的に低下し,噴火が引き起こされる可能性が示された.また,マグマ供給系におけるCO2流体の輸送モデルを構築し,火山噴出物の分析に基づいて火山からのCO2放出量を定量化する新しい方法を提案した.
最近では,爆発的噴火から非爆発的噴火への遷移プロセスを明らかにするために,メルト中の拡散が適度に遅い塩素に着目し,新島の流紋岩試料を対象に塩素濃度分布を詳しく解析した.その結果,発泡したマグマが流動する際に気泡同士が連結して長い通路を作り,そしてガスの移動後に通路が潰れて気泡を含まないマグマに変化するという過程が繰り返し起きていた痕跡が見出された.この発見により,実験的に提案されていた,気泡同士の合体で形成された通路が脱ガスに重要な役割を果たし,上昇中のマグマの爆発性が次第に失われていく,という概念が実証された.
吉村会員の研究は全て,火山噴火の諸現象の解明における着眼点の独創性,創意工夫に満ちた実験装置や実験システムの構築,そして天然試料や実験試料に対する卓越した洞察力でもって成し遂げられてものであり,これらの研究が当該分野へ与えたインパクト,貢献ともに非常に大きく,日本鉱物科学会研究奨励賞受賞者として相応しいと考え,ここに推薦する.