一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R4:地球表層・環境・生命

2023年9月15日(金) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R4P-03] 超高感度STEMイメージング法を用いたクロシドライト石綿断面微細組織観察

大西 市朗1、*三浦 颯人1 (1. 日本電子㈱)

キーワード:石綿、クロシドライト、走査透過電子顕微鏡法、最適明視野走査透過電子顕微鏡法

はじめに:角閃石系石綿の一つであるクロシドライト石綿は,微細化しやすく,吸引性が高いことから,6種類の石綿の中でも人体への毒性が最も高いと考えられている。クロシドライト石綿の微細化に関しては,これまで多くの研究がなされている。Ahn and Buseck(1991)[1]は,高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)法を用いてクロシドライト石綿断面の観察を行い,クロシドライト石綿が多結晶の微繊維の集まりであり,微繊維内外に多くの積層不整や層状ケイ酸塩などが存在することを明らかにし,多結晶粒界や積層不整に沿って繊維が微細化する可能性を示唆した。しかしながら,微細化のメカニズムを明らかにするためには,積層不整などのより詳細な観察が必要である。近年急速に発達した高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)法や環状明視野STEM(ABF-STEM)法を用いたクロシドライト石綿断面の原子分解能観察も試みられてはいる(例えば,[2, 3])ものの,微繊維内外の積層不整や層状ケイ酸塩は電子線に非常に弱く,詳細な構造解析には至っていない。最近,超高感度STEMイメージング法の一つとして,最適明視野STEM(OBF-STEM)法が開発された[4]。OBF-STEM法は,従来のABF-STEM法と比較して約2桁程度高い感度で像観察ができることから,従来ではSN比が低く観察が困難だった低電子線照射条件においても,高コントラストでの試料観察が可能となり,電子線敏感材料であるゼオライトや有機金属錯体の原子分解能観察が実現されるようになった。本研究では,OBF-STEM法を用いて,クロシドライト石綿の微細組織観察を試みた。 実験方法:試料はケープ産クロシドライト石綿を用いた。石綿繊維をエポキシ樹脂に包埋後,日本電子製イオンミリング装置・イオンスライサを用いて断面薄膜試料を作製した。OBF-STEM観察には,8分割STEM検出器を搭載した300kV収差補正S/TEM・JEM-ARM300F2を用いた。OBF-STEM観察時の加速電圧は300kV,プローブ電流は4pAである。 結果&考察:図1はクロシドライト石綿断面の原子分解能OBF-STEM観察結果である。クロシドライト石綿の微繊維の隙間にはしばしば層状ケイ酸塩が観察され,クロシドライトと層状ケイ酸塩は特定の結晶学的方位関係を有して接合している。OBF-STEM観察により,クロシドライトおよび層状ケイ酸塩のシリコンや鉄の原子サイトのみならず,ナトリウムや酸素といった軽元素の原子サイトまで明瞭に可視化されており,クロシドライトと層状ケイ酸塩は(010)面にて,酸素とナトリウムを共有して接合していることが明らかとなった。また,層状ケイ酸塩の層間には明瞭な原子の存在を示すコントラストが認められないことから,存在する層状ケイ酸塩が層間にイオンを含まないタルク様の層状ケイ酸塩であることが示唆された。HRTEMを用いた先行研究[1]では,タルクではなく,層間にアルカリイオンを内包する雲母の存在が示唆されており,これらの違いは石綿の産地の違いによる層状ケイ酸塩の形成条件の違いを反映しているのかもしれない。以上のように,OBF-STEM法はクロシドライト石綿中に存在する層状ケイ酸塩鉱物などの電子線損傷を受けやすい構造の観察に有効であることが分かった。OBF-STEM法を用いることで,石綿の内部構造を詳細に調べることが可能となり,今後,微細化のメカニズムを解明する手掛かりが得られると期待できる。 引用文献:[1] J.H. Ahn & P.R. Buseck (1991) Am. Min., 76, 1467-1478, [2] 大西 & 西岡(2010) 日本鉱物科学会2010年年会講演要旨集R5-03,[3] I. Ohnishi (2022) JEOL News, 57, 1, 23-27, [4]Ooe et al. (2021) Ultramicroscopy 220, 113133.
R4P-03