12:30 〜 14:00
[R1-P-08] 愛媛県魚島の片麻岩中から産するローズクォーツについて
キーワード:ばら石英、片麻岩、デュモルチ石様鉱物、魚島、ホウ素
【はじめに】
愛媛県上島町魚島には領家変成帯の片麻岩類が分布している。泥質片麻岩及び珪質片麻岩中にローズクォーツ(rose quartz; ばら石英)が広く分布することを新たに見出したので,その産状及び周囲の片麻岩類の鉱物学的な特徴について報告を行う。ローズクォーツは淡い桃色を帯びた石英で,本邦では福島県石川地方や福岡県福吉などのペグマタイト中からの産出がよく知られているが,本産地のような変成岩中からの産出報告はほとんどされていない。また,ローズクォーツの持つ特徴としてデュモルチ石様鉱物をインクルージョンとして含むことが報告されており(e.g., Goreva et al., 2001: Ma et al., 2002),変成岩中でのホウ素の挙動を捉えるうえでもこのような変成岩中でのローズクォーツの産状は重要な手がかりとなる。
【地質・産状】
瀬戸内海中央部に位置する愛媛県上島町魚島の地質は,泥質や珪質の片麻岩類及び深成岩類から構成されている(濡木,1995; 瀬尾ほか,1984)。魚島南西部の泥質片麻岩中には長さ2 cm程度の珪線石の柱状結晶が産出することが特徴的である。ローズクォーツは泥質,珪質片麻岩中に5-30 cm程度のレンズ状,脈状またはブーディン様構造を持ち産出し,珪質片麻岩よりも泥質片麻岩中で多産する。ローズクォーツと泥質片麻岩の境には細粒な桃色の石榴石が顕著に確認できるが,珪質片麻岩との境には確認できない。
【実験手法】
組織観察,化学分析,鉱物同定にはJEOL製走査型電子顕微鏡JSM-6510LV及びRIGAKU製粉末X線回折装置Ultima IVを用いた。
【結果・考察】
泥質片麻岩中のローズクォーツは粒径が1 cm以下の石英の塊状集合からなり,桃色の呈色には濃淡がある。周囲の泥質片麻岩は主に鉄礬石榴石,石英,黒雲母,斜長石を主にし,チタン鉄鉱(-パイロファン石),白雲母,緑泥石,フッ素燐灰石を含む。ローズクォーツと泥質片麻岩の境界部には,黒雲母をほとんど含まない鉄礬柘榴石と斜長石を主とする優白質部が存在する。鉄礬柘榴石はマンガンを多く含み(0.98-1.23 apfu),石英などの包有物を多く含むコアと一切含まないリムを持つ。明瞭な組成累帯構造は持たないが,リムの縁辺部ではわずかにマグネシウム,カルシウムが減少し,マンガン,鉄が増加する逆累帯構造を示す。
珪質片麻岩は幅数cmの珪質層ときわめて薄い泥質層とが互層をなしており,石英を主とし,黒雲母,斜長石,白雲母,緑泥石を含む。脈-レンズ状のローズクォーツは層構造に概ね調和的ではあるが,互層を切るような構造を持つ。粒径1 cm以下の石英の集合からなり,桃色の呈色には濃淡がある。
泥質片麻岩中のローズクォーツには,長さ5-30 μm,幅0.5 μm程でアルミニウムと微量のマグネシウム,鉄,チタンを含むデュモルチ石様インクルージョンが多く含まれる。このデュモルチ石様インクルージョンは石英粒子ごとにいずれも一定方向に伸長している。
泥質片麻岩中の鉄礬石榴石と黒雲母について石榴石-黒雲母地質温度計を用いて変成温度を求めたところ530-570℃となった。珪線石が形成されるような昇温期の石榴石の化学組成は失われており,求められた温度は後退変成時の変成温度を示すと考えられる。ローズクォーツは泥質片麻岩中の優白質部の形成と関連するものの,珪質片麻岩中の縞状構造を切るように存在するため,広域変成作用の後に形成されたと考えられる。ローズクォーツ中のデュモルチ石様鉱物の存在から,形成にはホウ素を含む流体が関わっており,変成岩中で電気石の分解などで生じた流体,あるいは泥質片麻岩中には非調和に貫入する電気石を含む花崗岩質ペグマタイト脈が存在することから,貫入する花崗岩類を起源とする流体に関連して形成されたと考えられる。
愛媛県上島町魚島には領家変成帯の片麻岩類が分布している。泥質片麻岩及び珪質片麻岩中にローズクォーツ(rose quartz; ばら石英)が広く分布することを新たに見出したので,その産状及び周囲の片麻岩類の鉱物学的な特徴について報告を行う。ローズクォーツは淡い桃色を帯びた石英で,本邦では福島県石川地方や福岡県福吉などのペグマタイト中からの産出がよく知られているが,本産地のような変成岩中からの産出報告はほとんどされていない。また,ローズクォーツの持つ特徴としてデュモルチ石様鉱物をインクルージョンとして含むことが報告されており(e.g., Goreva et al., 2001: Ma et al., 2002),変成岩中でのホウ素の挙動を捉えるうえでもこのような変成岩中でのローズクォーツの産状は重要な手がかりとなる。
【地質・産状】
瀬戸内海中央部に位置する愛媛県上島町魚島の地質は,泥質や珪質の片麻岩類及び深成岩類から構成されている(濡木,1995; 瀬尾ほか,1984)。魚島南西部の泥質片麻岩中には長さ2 cm程度の珪線石の柱状結晶が産出することが特徴的である。ローズクォーツは泥質,珪質片麻岩中に5-30 cm程度のレンズ状,脈状またはブーディン様構造を持ち産出し,珪質片麻岩よりも泥質片麻岩中で多産する。ローズクォーツと泥質片麻岩の境には細粒な桃色の石榴石が顕著に確認できるが,珪質片麻岩との境には確認できない。
【実験手法】
組織観察,化学分析,鉱物同定にはJEOL製走査型電子顕微鏡JSM-6510LV及びRIGAKU製粉末X線回折装置Ultima IVを用いた。
【結果・考察】
泥質片麻岩中のローズクォーツは粒径が1 cm以下の石英の塊状集合からなり,桃色の呈色には濃淡がある。周囲の泥質片麻岩は主に鉄礬石榴石,石英,黒雲母,斜長石を主にし,チタン鉄鉱(-パイロファン石),白雲母,緑泥石,フッ素燐灰石を含む。ローズクォーツと泥質片麻岩の境界部には,黒雲母をほとんど含まない鉄礬柘榴石と斜長石を主とする優白質部が存在する。鉄礬柘榴石はマンガンを多く含み(0.98-1.23 apfu),石英などの包有物を多く含むコアと一切含まないリムを持つ。明瞭な組成累帯構造は持たないが,リムの縁辺部ではわずかにマグネシウム,カルシウムが減少し,マンガン,鉄が増加する逆累帯構造を示す。
珪質片麻岩は幅数cmの珪質層ときわめて薄い泥質層とが互層をなしており,石英を主とし,黒雲母,斜長石,白雲母,緑泥石を含む。脈-レンズ状のローズクォーツは層構造に概ね調和的ではあるが,互層を切るような構造を持つ。粒径1 cm以下の石英の集合からなり,桃色の呈色には濃淡がある。
泥質片麻岩中のローズクォーツには,長さ5-30 μm,幅0.5 μm程でアルミニウムと微量のマグネシウム,鉄,チタンを含むデュモルチ石様インクルージョンが多く含まれる。このデュモルチ石様インクルージョンは石英粒子ごとにいずれも一定方向に伸長している。
泥質片麻岩中の鉄礬石榴石と黒雲母について石榴石-黒雲母地質温度計を用いて変成温度を求めたところ530-570℃となった。珪線石が形成されるような昇温期の石榴石の化学組成は失われており,求められた温度は後退変成時の変成温度を示すと考えられる。ローズクォーツは泥質片麻岩中の優白質部の形成と関連するものの,珪質片麻岩中の縞状構造を切るように存在するため,広域変成作用の後に形成されたと考えられる。ローズクォーツ中のデュモルチ石様鉱物の存在から,形成にはホウ素を含む流体が関わっており,変成岩中で電気石の分解などで生じた流体,あるいは泥質片麻岩中には非調和に貫入する電気石を含む花崗岩質ペグマタイト脈が存在することから,貫入する花崗岩類を起源とする流体に関連して形成されたと考えられる。