12:30 〜 14:00
[R1-P-16] 福岡県長垂のペグマタイト岩脈に伴う粘土の構成鉱物
キーワード:カオリン、ハロイサイト、長垂
はじめに
福岡県長垂はリチウムペグマタイトで有名な産地であり,海岸に露出する岩脈は1934年に「長垂の含紅雲母ペグマタイト岩脈」として国の天然記念物に指定されている.岡本 (1944)は長垂からのカオリンの産出を報告しているがその詳細は記述されていない.長垂のリチウムペグマタイト形成の最終段階で,リチウム鉱物やカリ長石は温度の低下とともにクッカイト(リチウム緑泥石),白雲母あるいはセリサイト,トスダイト,スメクタイトなどの粘土鉱物に変質している(Shirose and Uehara, 2013, 2014; Shirose, 2015).2022年2月に天然記念物指定区域内の東に位置するペグマタイト岩脈の現状変更の申請がなされ,工事が行われた際に現地調査を行った.このとき岩脈の下盤側に褐色の粘土脈を確認した.この粘土脈の特徴を知るために鉱物種の同定や微細構造観察,化学組成の測定を行った.
方法
長垂の粘土脈試料を水簸により,5あるいは2 μm以下の粒子を分離した.2 μm以下の粘土粒子をスライドグラスに塗布した定方位試料と乾燥させて不定方位試料を作製し,X線回折分析(Rigaku Ultima Ⅳ)を行った.定方位試料に関しては未処理,エチレングリコール処理及び加熱処理をした.また,採集した状態の粘土を乾燥させ,エポキシ樹脂を真空デシケータ中でしみこませ固化した後に,乾式法で研磨薄片を作りFIB-SEMを用いて薄膜試料を作成した.水簸試料については一部をマイクログリッドにのせた.これらについて走査型電子顕微鏡(理学部地球惑星科学教室JEOL JSM 7001F)と透過型電子顕微鏡で組織観察及び化学組成の測定を行った.
結果
長垂産粘土の定方位試料のXRDの結果を見ると7 Å付近に強い強度のピークがあり,構成鉱物の大部分がカオリン鉱物であった.カオリン鉱物のピークはブロードであり結晶性が悪い.また,10 Å付近のピークはイライト又はハロイサイトで14 Å付近の小さいピークはスメクタイトである.FIBの薄膜切片は2 μm以下の細長い粒子や石英,チューブ状の粒子,Fe,Tiに富む粒子,Kを含む粒子が観察された.細長い粒子は長さ1~2 μm,幅60 nm前後の板状結晶のカオリナイトで,回折パターンから7 Åの底面反射がみられた(Fig. 1b, 1c).回折パターンには10 Åの反射も見られ,イライト又はハロイサイトの粒子がカオリナイトの周囲に存在している(Fig. 1c).また,カオリナイトの格子像には7 Åのカオリナイトの層の間に15 Å前後の層が挟まれている様子が見られ,カオリナイト /スメクタイト混合層鉱物を形成している可能性がある(Fig. 1d).マイクログリットに乗せた粘土粒子からは長さ最大600 nm,幅70 nm程度のハロイサイトがみられた(Fig. 1a).カオリナイトのSEM-EDSから得られた平均的な化学組成は(Al1.58Fe0.27Mg0.11Ca0.03K0.05)Σ2.05(Si2.02O5)(OH)4であった.長垂産粘土中にLi鉱物は見られず,スメクタイトがほとんどないことからリチウムペグマタイトの変質後に低温熱水から形成された可能性がある.
参考文献
岡本要八郎 (1944):福岡県鉱物誌,日本鉱物趣味の会出版部148p, 149p.
Shirose, Y. & Uehara, S. (2013) Li tourmaline from Nagatare, Fukuoka Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences 108, 238–243.
Shirose, Y. & Uehara, S. (2014) Secondary phosphates in montebrasite and amblygonite from Nagatare, Fukuoka Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences 109, 103–108.
Shirose, Y. (2015): Mineralogical study of Li pegmatite from Nagatare, Fukuoka Prefecture, Japan: microtextures formed by exsolution and hydrothermal alteration, Kyushu University, doctoral dissertation.
福岡県長垂はリチウムペグマタイトで有名な産地であり,海岸に露出する岩脈は1934年に「長垂の含紅雲母ペグマタイト岩脈」として国の天然記念物に指定されている.岡本 (1944)は長垂からのカオリンの産出を報告しているがその詳細は記述されていない.長垂のリチウムペグマタイト形成の最終段階で,リチウム鉱物やカリ長石は温度の低下とともにクッカイト(リチウム緑泥石),白雲母あるいはセリサイト,トスダイト,スメクタイトなどの粘土鉱物に変質している(Shirose and Uehara, 2013, 2014; Shirose, 2015).2022年2月に天然記念物指定区域内の東に位置するペグマタイト岩脈の現状変更の申請がなされ,工事が行われた際に現地調査を行った.このとき岩脈の下盤側に褐色の粘土脈を確認した.この粘土脈の特徴を知るために鉱物種の同定や微細構造観察,化学組成の測定を行った.
方法
長垂の粘土脈試料を水簸により,5あるいは2 μm以下の粒子を分離した.2 μm以下の粘土粒子をスライドグラスに塗布した定方位試料と乾燥させて不定方位試料を作製し,X線回折分析(Rigaku Ultima Ⅳ)を行った.定方位試料に関しては未処理,エチレングリコール処理及び加熱処理をした.また,採集した状態の粘土を乾燥させ,エポキシ樹脂を真空デシケータ中でしみこませ固化した後に,乾式法で研磨薄片を作りFIB-SEMを用いて薄膜試料を作成した.水簸試料については一部をマイクログリッドにのせた.これらについて走査型電子顕微鏡(理学部地球惑星科学教室JEOL JSM 7001F)と透過型電子顕微鏡で組織観察及び化学組成の測定を行った.
結果
長垂産粘土の定方位試料のXRDの結果を見ると7 Å付近に強い強度のピークがあり,構成鉱物の大部分がカオリン鉱物であった.カオリン鉱物のピークはブロードであり結晶性が悪い.また,10 Å付近のピークはイライト又はハロイサイトで14 Å付近の小さいピークはスメクタイトである.FIBの薄膜切片は2 μm以下の細長い粒子や石英,チューブ状の粒子,Fe,Tiに富む粒子,Kを含む粒子が観察された.細長い粒子は長さ1~2 μm,幅60 nm前後の板状結晶のカオリナイトで,回折パターンから7 Åの底面反射がみられた(Fig. 1b, 1c).回折パターンには10 Åの反射も見られ,イライト又はハロイサイトの粒子がカオリナイトの周囲に存在している(Fig. 1c).また,カオリナイトの格子像には7 Åのカオリナイトの層の間に15 Å前後の層が挟まれている様子が見られ,カオリナイト /スメクタイト混合層鉱物を形成している可能性がある(Fig. 1d).マイクログリットに乗せた粘土粒子からは長さ最大600 nm,幅70 nm程度のハロイサイトがみられた(Fig. 1a).カオリナイトのSEM-EDSから得られた平均的な化学組成は(Al1.58Fe0.27Mg0.11Ca0.03K0.05)Σ2.05(Si2.02O5)(OH)4であった.長垂産粘土中にLi鉱物は見られず,スメクタイトがほとんどないことからリチウムペグマタイトの変質後に低温熱水から形成された可能性がある.
参考文献
岡本要八郎 (1944):福岡県鉱物誌,日本鉱物趣味の会出版部148p, 149p.
Shirose, Y. & Uehara, S. (2013) Li tourmaline from Nagatare, Fukuoka Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences 108, 238–243.
Shirose, Y. & Uehara, S. (2014) Secondary phosphates in montebrasite and amblygonite from Nagatare, Fukuoka Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences 109, 103–108.
Shirose, Y. (2015): Mineralogical study of Li pegmatite from Nagatare, Fukuoka Prefecture, Japan: microtextures formed by exsolution and hydrothermal alteration, Kyushu University, doctoral dissertation.