R2：結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

[R2-P-04] MnおよびFeを含有するDiopside(Violan)の精密構造解析

「発表賞エントリー」

*千葉 颯斗¹、杉山 和正²、徳田 誠³、三河内 岳⁴ (1. 東北大・工院、2. 東北大・金研、3. 熊本大・産研、4. 東京大・総博)

キーワード：透輝石、ビオラン、X線異常散乱、エックス線吸収端近傍構造

【緒言】透輝石（Diopside）は，アルカリ土類金属CaおよびMgを主成分とする単斜輝石でありCaMgSi₂O₆の化学組成で表される．Diopsideには，各種遷移元素の固溶があり，Crを固溶し緑色を示す山梨県南部町佐野川のChromian Diopsideは有名である．様々な色を示すDiopsideのなかで，特に紫色のものはViolanと呼ばれ，装飾品として使われている．この特徴的な紫色は構造中にMnが存在することに由来するとされている^※１．赤色や緑色の発色には2価のMnが関与することが知られているが，Violanにおける紫色の発色原因は3価のMnによる作用が考えられている．しかしViolanに含有するMnは微量であり，過去の研究ではMnの酸化状態と色との関係を解明することはできていなかった．本研究では，Violanに含まれる遷移元素の電子状態や占有サイトを確認することで，Violanが紫色になる原因を突き止めたいと考えた．
【実験方法】試料はViolan（Praborna Mine, Saint-Marcel, Aosta Valley, Italy）を選択した．KEK PF BL-4AにおいてX-ray Absorption Near Edge Structure（XANES）測定を行い，含有されるFeおよびMnの電子状態を決定した．また，X線回折装置 （Synergy-S（Mo Ka））を用いて単結晶構造解析を行い，結晶構造を確定した．さらに，KEK PF BL-6CにおいてAnomalous X-ray Scattering （AXS）を行い，Mnの結晶構造内の占有サイトを調べた．試料の化学組成に関しては，Electron Probe Micro Analyzer（EPMA: JEOL JXA-8530F）を用いた定量分析を行った．
【結果】Violan試料についてXANES測定で得られたFeおよびMnのK吸収端エネルギーは，標準試料 (LiFePO₄およびLiMnPO₄) に対して高エネルギー側にシフトしており，FeはFe³⁺，Mnはほぼ Mn²⁺であるが若干Mn³⁺が共存していることが判明した．Mo Kα線を用いた構造解析では，Ca席に軽元素が分布していること，さらにMg席には重元素が分布していることを結論することができた．さらに，Mnの環境構造を解析できるMn-AXS実験から，微量元素であるMnはMgサイトを占有していることが確認できた．EPMAの分析結果を踏まえると，今回のイタリア産Violan試料では，Ca²⁺_VIII + Mg²⁺_VI= Na⁺_VIII + (Fe³⁺, Mn³⁺, Al³⁺) _VIおよび　Mg_VI ＝Mn²⁺_VIの置換メカニズムが機能していることが明らかとなった．Fe^3＋，Mn²⁺およびMn³⁺が八面体チェインに含有されるPurpurite（Maine, USA）も紫色を示すこととの関連性は興味深い．
【参考文献】※１Mottana, A., Rossi, G., Kracher, A. et al. Violan revisited: Mn-bearing omphacite and diopside. TMPM Tschermaks Petr. Mitt. 26, 187–201 (1979).