一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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R3:高圧科学・地球深部

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R3-P-06] 中性子イメージングを用いた高温高圧下における水素封止材の検討

*柿澤 翔1、鍵 裕之2、高野 将大2、佐野 亜沙美3、服部 高典3、阿部 淳4、舟越 賢一4 (1. JASRI、2. 東大・院理、3. JAEA J-PARCセンター、4. CROSS 中性子科学センター)

キーワード:水素、中性子イメージング、水素封止材

鉄をはじめとするある種の金属は高圧下で水素化物を形成する。そのため、高圧発生装置を用いた金属水素化物の高温高圧実験が盛んに行われている。しかし、マルチアンビル型プレスでは、高圧セル内に水素ガスを封入することは困難である。この課題を克服するために、高温高圧条件下で不可逆的に分解して水素を放出する固体内部水素源と水素封止カプセルを用いることで、試料と水素を直接反応させることができる(Fukai, 1984)。カプセルの材料としては、NaClが広く利用されてきた。しかし、利用されてから約40年が経っても、なぜ水素を封止できるのかその理由は解明されていない。また、NaClの高温下での粒成長によって水素封止能力が低下するのではないかと近年研究者間で議論されている。さらにNaClは1200 Kにおいて25 GPa以上の圧力でB1-B2転移し水素と反応してNaCl(H2)を生成することが報告されており(Matsuoka et al., 2019)、水素封止能力の低下が予想される。一方、我々の技術開発により、20 GPa以上の圧力で高温高圧下中性子回折実験ができるようになり、そのような温度圧力領域でも使用可能なカプセル材料の探索や、その探索指針を得るためのNaClの水素封止能力のメカニズムの解明が急務となっている。そこで本研究は、中性子イメージングを用いて高圧セル内の水素を可視化しNaClの水素封止能力の検証を行った。 実験は茨城県東海村にあるJ-PARC MLFのBL11 PLANETで行った。高圧装置には6軸型マルチアンビルプレス「圧姫」を用いた。加圧にはMA6-6方式を採用し上流および下流のアンビルギャップを通して高圧セルを透過観察した。カプセル材には単結晶および多結晶のNaClの2つをテストした。水素の有無は、カプセル内に入れたFeの透過強度から推定し、内部水素源にはアンモニアボラン(NH3BH3)を使用した。圧力は5 GPaであり、透過イメージと回折パターンを交互に測定を行った。 
図1にNaCl多結晶カプセルを用いたときの実験結果の例を示す。加圧後、370 Kから950 Kまで5分かけて昇温し、昇温中および昇温後保持中に測定を行った。昇温開始後に鉄の透過強度が減少し始め、それは30分間続いた。これは、水素源から供給された水素が鉄中に拡散し、鉄水素化物を形成しためである。その後は一転して透過強度が増加する傾向が見られ、850 Kに降温してもその傾向は続いた。950 Kにおいて多結晶NaClの水素封止能力が低下したことを示している。さらに、別の実験で温度を段階的に上げて同様の観察を行ったが、800 Kから950 Kの間で水素が抜ける様子が観察された。単結晶NaClカプセルを用いた実験でも同様の結果が得られた。これらのことから、NaClの結晶性に関わらず水素封止能力の低下が起こると考えられるが、多結晶を用いた実験では昇温中の粒成長が観察されたため、必ずしも多結晶NaClカプセルの水素封止能力をテストできたわけではないと考えている。 
今回の結果から、従来考えられているよりも低い温度で、水素封止能力が低下することがわかった。より高温高圧下での金属水素化物の実験を行うためにもNaCl以外の水素封止カプセル材の探索が必要であると考えられる。
R3-P-06