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[R5-10] シリカ鉱物を用いたメソシデライトの熱史推定
キーワード:メソシデライト、シリカ鉱物、トリディマイト、クリストバライト、隕石
はじめに:我々はこれまでシリカ鉱物が隕石の特に400oC以下の低温での冷却速度を見積もる上で有用である可能性を示した(Ono+ 2021)。例えば、シリカ鉱物はメルトから最初にクリストバライト(Crs)として晶出した場合、冷却の過程で、その冷却速度の違いにより、石英やトリディマイトに相転移すると示唆した。この場合、石英に相転移するよりもトリディマイトに相転移するほうが遅い冷却速度を経験していることを示し、その時のトリディマイトは、400℃以下における冷却速度の違いによって擬直方晶系トリディマイト(PO)と単斜晶系トリディマイト(MC)に分かれるとしている。しかし、POやMCに相転移する際に期待される冷却速度は〜10^-4 ℃/yrと非常に遅いため、実験での定量的な推定は困難である。そこで本研究では、シリカ鉱物に加え、メソシデライトは、これらに加えて、800-1000℃程度での冷却速度を推定可能な輝石も含まれている。そのため、Fe-Niメタルと輝石が示す冷却速度と存在するシリカ鉱物の相や形態を比較することで、ユークライトと同様にメソシデライトの熱史を推定することができると考えた。結果:今回は3つの試料(ALH-77219 (1B)、NWA 2924 (3A)、Asuka- (A) 881154 (1A))の観察および分析を行なった。それぞれの試料に含まれているシリカ鉱物をSEM(JEOL JSM-7100; JSM-7001F)で観察し、相同定は顕微ラマン分光計(JASCO NRS-1000)を用いて行なった。メソシデライトは鉱物学的および再結晶化度合いによって、それぞれA〜Cおよび1〜4のサブタイプに分類されており(Hewins, 1984; 1988)、各試料のサブタイプは上述括弧内に示している。全ての試料に共通してMC中にラメラ状のPOが存在していた。その他に、NWA 2924ではCrsが存在しており、”Fish-scale”と呼ばれる割れ目が顕著に見られ、稀にPOと共存していた。A 881154では、石英がMCおよびラメラ状POと共存していたが、MCは単体でも存在していた。考察:今回の結果では、再結晶化度合いが高いタイプ3に分類したNWA 2924にCrsが見られ、タイプ1の両試料にはCrsは存在せず、MCとPOが見られた。メソシデライトは形成過程が複雑であるため、その分類においても形成過程の複雑さが反映されていると指摘されている(Zachen, 2024)。本研究の結果においても、分類の複雑さが現れていると考えられ、再結晶化度合いとシリカ鉱物の組み合わせについては、慎重に議論すべきである。また、NWA 2924中にCrsとPOが共存している様子が確認された。これは、Crsが部分的にトリディマイトに相転移した結果であると考えられる。同じ組み合わせのシリカ相は、UngroupedのエコンドライトであるErg Chech 002(EC002)隕石中でも報告されており、その冷却速度は輝石の離溶ラメラを用いて~1000-1200℃において3^-3℃/day程度と推定されている(e.g., Barrat et al. 2021)。このことから、NWA 2924はEC002と同様に3^-3℃/day程度の冷却速度を経験したと考えられる。一方で、NWA 2924にはPOラメラを持つMCも見つかっており、これは集積岩ユークライトのMoamaで類似したものが見つかっている(Ono+ 2019)。Moamaは輝石の離溶ラメラから冷却速度が~800-900℃において10^-4℃/yr程度と見積もられており、先のCrsとPOの組み合わせよりも非常に遅い冷却を経験したことになる。以上のことから、NWA2924は母天体の表層付近と深部の物質が混合した隕石であると考えられる。先行研究では、メソシデライトは母天体上で一度破砕された物質が、地殻物質と混合して形成されたと報告されており(Haba+ 2019)、NWA2924ではそれと矛盾しない熱履歴が推測された。まとめ:本研究では、今後は、定量的な見積もりを行うため、輝石の離溶ラメラや化学的ゾーニングおよびFe-Niメタルから冷却速度を推定していく予定である。また、再結晶化度合いとシリカ鉱物の組み合わせにおいても、これまでの分類と比較しながら慎重に検討して議論を行っていきたいと考えている。