12:30 〜 14:00
[R7-P-03] 落合-北房超マフィック岩体のレールゾライトに産する“斜消光”するように見えるかんらん石の成因
キーワード:落合ー北房、かんらん岩体、かんらん石
マントルかんらん岩中のかんらん石の特殊な組織の形成過程を明らかにすることは,マントル物質の地表への上昇過程における熱変成の影響や加水・脱水等の様々なイベントを知る上で重要である(Nozaka and Ito, 2010 etc.)。一般にかんらん石は,劈開は認められず,よく不規則な割れ目ができ,劈開が認められる場合には(010)Ol面に平行な弱い劈開を持ち,直消光することで知られる(都城・久城,1972)。しかし、造山帯地域のかんらん岩体からは、上記のような特徴とは異なるかんらん石が報告されている。その一つである“cleavable olivine”は、(010)Ol以外にも(100)Ol,(001)Olに平行な完全な劈開面を持つように見え,面に対し直消光するかんらん石であり(Hawkes., 1946 etc.)、熱変成後のアニーリングで形成されたかんらん石の裂開へアンチゴライトが形成されることで形成したとされている(相川,1981 etc.)。また、“cleavable olivine”と同様に顕著な裂開が発達しているが,“cleavable olivine”とは異なり,裂開に対し消光位が大きくずれたかんらん石(一見斜消光しているように見えるかんらん石)が,Arai and Oyama(1981)およびPlümper et al.(2012)によって報告されている。本研究では、Arai and Oyama (1981)によって岡山県真庭市の落合–北房超マフィック岩体から報告された、斜消光しているように見えるかんらん石を対象とし、記載と結晶学的知見からこの特徴的な組織を持つかんらん石の形成過程を解明することを目的とした。鉱物の組成分析には、FE-EPMAを用いた。裂開が発達するかんらん石の結晶方位と裂開の関係を明らかにするため, EBSD法を用いて両者の結晶方位を解析した。研究試料はArai and Oyama (1981)によりレールゾライト帯から採取されたものを用いた,初生鉱物のかんらん石,単斜輝石,クロムスピネル、および二次鉱物の緑泥石,蛇紋石および褐色の微細鉱物の集合体からなる。試料は、母岩の組織をよく残しているが、直方輝石は存在しない。かんらん石は粒径0.1–1 mmの他形で,不規則な割れ目が存在する。一部のかんらん石は蛇紋石の脈を伴う。このようなかんらん石はArai and Oyama (1981)が初生的としたものに相当し,以後‘初生的かんらん石’と記す。他方,従来’cleavable olivine’と記述されることが多かった裂開が発達したかんらん石は、粒径0.05–0.5 mmの他形で,従来知られているcleavable olivineとは異なり裂開に対してさまざまな消光角で消光を示し,干渉色の異なる複数のドメインから構成されている。このようなかんらん石は多くの場合周囲が褐色の細粒鉱物集合体と共生し、蛇紋石脈に沿って産出する。初生的なかんらん石のFo値は89であり,裂開が発達するかんらん石”のFo値は81である。かんらん石の裂開を蛇紋石が充填し、この裂開沿いにCa元素濃度が高い箇所が存在する。裂開の2次元面はかんらん石a軸に対して約90°の方向にあるが,b軸とc軸の方向に対しては不規則な方位を示す。裂開に沿ってCaが分布しており,直方輝石から溶出した単斜輝石の離溶ラメラのように見えること,裂開が発達したかんらん石を伴う鉱物集合体が母岩であるレールゾライトの直方輝石の粒子サイズや形状に類似することから,起源鉱物は単斜輝石の離溶ラメラを伴う直方輝石であることが示唆される。これは、Plümper et al.(2012)の見解と一致する。ただし、Plümper et al.(2012)は,この単斜輝石の離溶ラメラをもつ直方輝石が一度蛇紋石化し,その後脱水作用によって二次的にかんらん石が晶出したことを報告した。しかし,落合-北房かんらん岩体の履歴(Arai et al., 2019)からは,蛇紋石の脱水作用は考えられない。また,脱蛇紋岩化で形成したかんらん石は一般に高いFo値(95程度)を示すが、本研究でのかんらん石の組成はFoは81と初生的なかんらん石よりも低い値であることとも整合的である。本研究試料の裂開の発達したかんらん石が蛇紋石の脱水で形成したとは考えにくい。また、裂開が、直方輝石の単斜輝石の離溶ラメラ面であったとすれば、直方輝石とかんらん石には(100)opx //(100)olのトポタキシャルな関係がある可能性が高く、かんらん石はトポタキシャルな関係を持って直方輝石から直接晶出したと考えられる。したがって、落合-北房地域のかんらん岩に産する裂開の発達したかんらん石は、単斜輝石の離溶を伴う直方輝石が、周防変成作用(沈み込み)時に直接かんらん石に変化したものであると結論される。