一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R8:変成岩とテクトニクス

2024年9月12日(木) 15:30 〜 18:00 ES024 (東山キャンパス)

座長:纐纈 佑衣(名古屋大学)、遠藤 俊祐(島根大学)

17:45 〜 18:00

[R8-10] 鉱物組合せと白雲母K-Ar年代に基づく神居古潭帯幌加内地域の地帯区分の再提案

*平島 崇男1、苗村 康輔2、吉田 健太3 (1. 京都大学、2. 岩手大学・教育、3. 海洋研究開発機構)

キーワード:白雲母K-Ar年代、三重点青色片岩、幌加内地域、神居古潭帯

北海道・神居古潭変成帯・幌加内地域では、変成鉱物の分布に基づく変成分帯(柴草、1974)と白雲母のK-Ar年代による地帯構造区分(榊原ほか、2007)が提案され、見解が分かれていた。柴草(1974)はローソン石(Lws)・パンペリー石(Pmp)・緑簾石(Ep)の出現消滅関係から、地域を3つに分帯した。平島ほか(2023)は塩基性変成岩中の鉱物組合せを用いて、柴草のZone Iはアルカリ輝石パンペリー石亜相{Lws+Pmp+アルカリ輝石(Napx)+緑泥石(Chl)組合せ}、柴草のZone II/IIIは青色片岩相であると指摘した。また、当該地域の青色片岩ではアルカリ角閃石(Namp)-Napx-Chlに加えEp, Lws, Pmpの3相が共存可能であることを示し、三重点青色片岩(Triple Point Blueschist)という名称を提案した。榊原ほか(2007)は、当該地域の変成岩を、白雲母のK-Ar年代や母岩の変形の程度により、以下の様な分帯を提案した:幌加内ユニット:HP1 泥質変成岩も塩基性変成岩も全て片状構造を示し、白雲母のK-Ar年代は135-120Ma。変成塩基性岩中の鉱物組合せはEp/Lws- Namp -(Napx or Pmp)。K-Ar年代は後述する美瑛・春志内ユニットより古いので、片岩を形成した変成作用をHP1と命名した。なお、幌加内ユニットの分布範囲は柴草のZone II/III地域と概ね一致する。美瑛ユニット:HP2   泥質変成岩は片理構造を示すが、塩基性変成岩は弱変形で、Nampが出現しないため緑色を呈す。代表的鉱物組合せはLws-Napx-Pmp。白雲母のK-Ar年代は115-100Ma。美瑛ユニットの分布範囲は柴草のZone I地域と概ね一致。しかし、我々の野外調査で、榊原ほか(2007)が美瑛ユニットに区分したシラッケ山とその北方の砂利川から沼牛山にかけて、片理の発達した青色片岩が分布することを確認した。更に、当該地域の変成岩のK-Ar年代値は未報告であった。以上の点を踏まえて、砂利川と沼牛山、並びにその周辺から採集した片岩から白雲母を分離し、K-Ar年代測定を行った。なお、白雲母の分析作業は蒜山地質年代学研究所に委託した。その結果は以下のとおりである:榊原ほか(2007)の幌加内ユニット:EP256:江丹別峠, 115.1MaKD12:沼牛川東方, 123.3/106.6MaKD13:沼牛川東方, 126.9/101.8Ma榊原ほか(2007)美瑛ユニット:KHK121:沼牛山、120.2MaKHK331/KHK333:砂利川、109.2Ma/105.6Ma  青色片岩中の白雲母は総じて細粒であるため、年代測定を行った白雲母フラクションの粒径は0.2-2μmに調整した。但し、KD12/13には粗粒の白雲母が含まれていたので、50₋120μmのフラクションについても年代測定を行った。 KD12/KD13の50₋120μmフラクションは123.3/126.9Maを示し、0.2-2μmフラクションは106.6/101.8Maとなり、その差は、12~25Maに達した。細粒フラクションの年代が若くなる現象は、九州黒瀬川帯(Sato et al., 2014)や関東山地の秩父帯(Lu et al., 2022)でも確認されており、その理由については諸説ある。粒子径の影響を排除するために、細粒フラクション年代を検討すると、幌加内ユニットでは115.1~106.6Ma、美瑛ユニットでは120.2~105.6となり、両者を区別することは困難である。幌加内地域で報告されているK-Ar年代をまとめると以下のようになる:・異地性岩塊(Ep角閃岩):145-132 Ma(3例)・青色片岩相地域:134-101Ma(13例)・アルカリ輝石パンペリー石亜相地域:107-102 Ma(3例)アルカリ輝石パンペリー石亜相(Zone I, 或いは美瑛ユニット)から報告されたK-Ar年代は青色片岩のK-Ar年代値と重複する。幌加内地域において、アルカリ輝石パンペリー石亜相からLws青色片岩やEp青色片岩に変化する変成反応はほぼ同一のPT条件で生じることが報告されている(平島ほか、2023)。これらのことを考慮すると、幌加内地域の弱変形部(アルカリ輝石パンペリー石亜相)と青色片岩部は連続した変成作用を示し、両者の間に構造的不連続を想定する必要は無い。