一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

S2: 岩石-水相互作用 (スペシャルセッション)

2024年9月13日(金) 09:00 〜 12:00 ES024 (東山キャンパス)

座長:土屋 範芳

11:45 〜 12:00

[S2-10] カンラン岩の炭酸塩化:流体包有物分析と水熱合成実験によるアプローチ

*川本 竜彦1 (1. 静岡大学理学部地球科学科)

キーワード:流体包有物、蛇紋岩、海水、二酸化炭素、マントル

カンラン岩中の炭酸塩鉱物の産状としては、蛇紋岩中の炭酸塩脈と蛇紋岩角礫が炭酸塩の基質に囲まれる2つがある。これらは、いずれもオフィカーボネイトと呼ばれている。これまで、以下にのべるオフィカーボネイト中の炭酸塩に塩水からなる流体包有物を記載、報告してきた。(1)高速拡大海嶺で生成されたとされるオマーンオフィオライトの蛇紋岩に入る炭酸塩脈、(2) 低速拡大海嶺で生成されたとする西アルプスのオフィオライトの蛇紋岩に入る炭酸塩脈と炭酸塩基質、(3) 伊豆マリアナ海溝の蛇紋岩泥火山中のカルサイト、(4) 秩父の三波川帯のマントルウェッジ起源の蛇紋岩中の炭酸塩脈。その結果、(1)のオマーンオフィオライトの蛇紋岩の後期の脈に真水の流体包有物を発見した以外は、炭酸塩中の流体包有物に含まれる塩水は海水、または海水よりも少し高い塩濃度であった。(1)のオマーンオフィオライトの蛇紋岩中にも真水の流体包有物を持つカルサイト脈よりも前には、海底下で生成されたと考える脈に海水に似た塩濃度を持つ流体包有物が存在する。つまり、(1)と(2)に見られる海洋底の下の変成作用でできるオフィカーボネイトには海水に似た塩水が関与しており、(3)と(4)で見られるリソスフェアーが沈み込むマントルウェッジにも海水に似た塩濃度を持つ流体が持ち込まれていることを示す。

マントル岩と水・二酸化炭素の混合流体との反応を再現するために、流体包有物の解析と並行して鉄を含む系で水熱合成実験を行っている。実験結果は、広い温度領域においてタルクが石英とマグネサイトが共存し、このタルクは非平衡で晶出すると考えないと辻褄が合わない。今後、平衡な鉱物組み合わせを決定できると、Perple_Xなどの熱力学計算できるCaO-MgO-SiO2-H2O-CO2系での相平衡図と比較して、鉱物安定領域の温度圧力条件に鉄が与える影響を理解できる。また、上述の(2)西アルプスのケラス地域では、タルク、アンティゴライト、カルサイトとマグネサイトが共存する(大澤陽介、研究中)。CaO-MgO-SiO2-H2O-CO2の系での熱力学計算では、0.1GPaでは、流体のCO2/(H2O+CO2)モル比は0.03以下、温度は360℃以下である。0.5G Paだと、CO2/(H2O+CO2)モル比は0.002以下、温度は340℃以下と推定できる。さらに、その岩石中の流体包有物の均質化温度から求められる温度圧力条件と、これらの条件が一致するか確認するによって、マントルの炭酸塩化の条件がより精確に理解できると期待する。