一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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S3:マントル・地殻のレオロジーと物質移動(スペシャルセッション)

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[S3-P-06] 渡島大島火山のピクライト玄武岩のかんらん石斑晶内部のマントル流体/メルトの痕跡

*塚脇 遼1、江島 輝美2、二ノ宮 淳3、荒井 章司4 (1. 信大・院理、2. 信大・理、3. 住鉱資源開発、4. 金沢大)

キーワード:マントル、ピクライト玄武岩、かんらん石、流体/メルト、渡島大島

マントルにおける流体またはメルト(流体/メルト)の存在形態および移動法は深発地震や火山噴火の発生に関わるため重要である。流体/メルトはマントルの構成鉱物の粒間を通り移動すると一般に信じられており,それらが集まると収束流となり移動することが知られている(e.g., Kelemen et al., 1995)。これらの痕跡は,かんらん岩体においてダナイト脈やバンドとしてしばしば観察される(e.g., Zhou et al., 2021)。しかし,集積する前の流体/メルトの存在・移動の様子はマントル由来のかんらん岩からは直接観察されたことはない。これらは,マントル物質の冷却,流動,再結晶により失われているためであると考えられる。このため,マグマ形成場付近でのマントルかんらん岩中の流体/メルトの実際の存在形態・移動経路に関する直接的情報は得られていない。
 本研究ではピクライト玄武岩中のかんらん石から,マントル環境下に存在した流体/メルトの痕跡を発見したため,その存在形態や分布を明らかにし,マントルおける流体の移動経路に関する新知見を提供する。
 観察・組成分析には電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA)を用い,結晶方位測定(EBSD法)には電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いた。
 渡島大島は東北日本において最も背弧側に位置する第四紀火山であり,ピクライト玄武岩が産する(Yamamoto, 1988)。渡島大島ピクライト玄武岩中に含まれるかんらん石斑晶のコアは黒色~褐色を呈する(このコアを以降は“Black core”とよぶ)。この“Black core”にはキンクバンドや波動消光が見られ,応力を受ける環境下に存在していたものであり,マグマから晶出したものでないことがわかる。さらに,“Black core”のかんらん石のFo含有量およびNiO値は上部マントル由来のかんらん石(高橋, 1986)と同様の値を示す。ピクライト玄武岩マグマの成因を合わせ考えると,渡島大島ピクライト玄武岩中のかんらん石斑晶中の“Black core”はマントルかんらん石の捕獲結晶であると考えられる。
 かんらん石中の“Black core”は,直径数µm以下の球形の“多相包有物”が多数存在することで黒色に見えており,“多相包有物”は自形のスピネル,ガラス,空隙から構成される。“多相包有物”中のガラスはかんらん石が構成元素としないNaなどの元素を含む。 “多相包有物” は3次元的には複数の面上に分布し,その面は90°の角度で交わることがある。この“多相包有物”が分布する面は,かんらん石の(100)、(010)、(001)の結晶面と一致する。これらの面は,マントル環境下ではマントル対流に影響するかんらん石のすべり面として良く知られている(e.g., Jung and Karato, 2001)。
 上記の結果より,“多相包有物”は外部からかんらん石に注入されたケイ酸塩メルトと流体の混合物質により形成したものであり,かんらん石の“Black core”に存在する多数の“多相包有物”は上部マントルの流体/メルトが保存されたものであると考察される。したがって,島弧下の上部マントルにおいて流体/メルトが,粒間だけでなくかんらん石(マントル構成鉱物)内を移動経路としていることを強く示唆する。

References:
Jung, H. and Karato, S., (2001), Science, 293, 1460-1463.
Kelemen. P.B. et al., (1995), J. Geophys. Res., 100, 475-496.
高橋栄一,(1986),火山30, 17-40.
Yamamoto, M. (1988) Contrib. Mineral. Petrol., 99, 352-359.