第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

式・他行事

学会奨励賞受賞講演・授賞式

2023年9月18日(月) 15:10 〜 15:40 A会場 (百周年講堂(本館7F))

座長:宇田川 信之(歯科基礎医学会 理事長,松歯大 生化)

15:10 〜 15:20

[C-10] 母親から乳児への口腔細菌母子伝播の高解像度同定

〇影山 伸哉1 (1. 九大 院歯 口腔予防)

キーワード:Oral microbiota、Mother-infant transmission、Long-read sequencing

【目的】母親由来口腔細菌の獲得は、乳幼児期の口腔マイクロバイオーム形成において重要な役割を果たすと考えられている。本研究では、母親から乳児への口腔細菌伝播を高精度に評価し、乳児の口腔における母親由来細菌獲得の程度やそれに影響を与える要因を特定することを目的とした。
【方法】福岡市東区の4か月児健診を受診した448名の乳児(双子4組を含む)とその母親から舌スワブ検体を採取した。得られた892検体からDNAを抽出したのち、細菌共通配列であるプライマー8F、1492Rを用いて16S rRNA遺伝子の全長を網羅的に増幅した。増幅断片の塩基配列は1分子リアルタイムDNAシークエンサーのPacBio Sequel IIを用いて解読し、amplicon sequence variant(ASV)解析によって各検体の細菌構成を一塩基レベルで明らかにした。この手法により、16S rRNA遺伝子全長の塩基配列が完全に一致した細菌を母子間で探索することで、口腔細菌の母子伝播を高解像度に評価できる。
【結果】乳児の細菌構成は母親の細菌構成と大きく異なっていたが、91.1%の乳児が少なくとも1つのASVを生物学的母親と共有していた。また、これらのASVは乳児口腔マイクロバイオームの9.7%(0-99.3%)を占めていた(構成比率、中央値[範囲])。特に、Veillonella disparStreptococcus salivariusが高頻度に共有されていた。この構成比率は、分娩様式や抗菌薬服用の有無ではなく乳児の栄養方法と強く関連しており、完全母乳栄養児と比較して人工乳栄養児や混合栄養児で有意に高かった。
【結論】4か月児の口腔マイクロバイオームにおいて、口腔細菌の広範な母子伝播が菌株レベルで確認された。また、母乳育児が乳児の口腔マイクロバイオームの早期成熟を遅らせる可能性が示唆された。