第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

日本学術会議シンポジウム(市民公開講座)

「臓器再生最前線〜ミニ臓器の作製から応用まで〜」

2023年9月16日(土) 17:30 〜 19:00 A会場 (百周年講堂(本館7F))

座長:美島 健二(昭大 歯 口腔病理)、樋田 京子(北大 院歯 血管生物分子病理)

17:30 〜 17:52

[SCJS-01] 中枢神経系のオルガノイドの作製とその応用

〇六車 恵子1 (1. 関西医大)

キーワード:脳オルガノイド、脳形成・脳発生、神経疾患

神経科学の究極的目標のひとつは、知性や精神の座とされるヒトの脳の発生、構造、 機能を科学的に理解し、その知見を神経疾患の克服に役立てることにある。これまでヒト脳そのものを対象とした実証的研究は、非侵襲的な画像解析や剖検脳を用いた分子生物学的または組織学的解析が専らであった。しかしながら、ヒトにおける複雑な脳構造や脳機能は、最も近いとされる非ヒト霊長類とも質的に異なり、実験動物による分子・細胞・組織レベルの詳細な計測・解析を以てしても、ヒト固有の構造・機能解明に十分とは言えない。 我々はこれまで、ヒト脳の発生と機能発現を理解することを目的に、試験管内研究における技術革新を推し進めてきた。ES細胞やiPS細胞など多能性幹細胞から特定の神経細胞・組織を分化誘導するための培養技術の開発を通じて、「発生の基底状態」のような古典的な手法では解き明かせなかった謎に迫り、「細胞の自己組織化」という器官形成におけるあらたな概念を提唱することができた。ヒトの脳発生が試験管の中で模倣・再現・操作できることは、ヒト脳研究のための新しい研究ツールを手に入れただけではなく、多能性幹細胞を活用した神経難病に対する再生医療や疾患研究を可能にしたことも意味する。患者の体細胞から作製したiPS細胞と分化誘導技術を組合せれば、患者の病態を培養皿の中に再現し、in vitro疾患モデルとして解析をすることが可能となる。 これまでの難病研究で蓄積されてきた多くの知見、幹細胞技術、発生生物学的および神経科学的アプローチを融合させることにより、新たな研究リソースの提供と疾患研究を進めている。本講演では、ヒト多能性幹細胞を用いた脳発生・疾患研究に関する我々の取組みをご紹介させていただく。