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[US7-06] 口腔がんの発生と進展機構
キーワード:口腔がん、遺伝子変異、部分的上皮間葉転換
頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)は世界的に発症率の高いがんであり、その罹患率は現在も増加傾向にある。化学放射線療法に加え、EGFRモノクローナル抗体セツキシマブや免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが治療法として承認されているが、ヒトパピローマウイルス(HPV)陰性HNSCCの5年生存率は長い間改善されていない。HNSCC症例における網羅的な遺伝子変異解析では、HPV陰性症例において、TP53、FAT1、CDKN2Aの順に遺伝子変異の頻度が多いことが報告されている。我々は、口腔がんの発癌におけるTP53、FAT1、CDKN2A遺伝子変異の関与を明らかにするために、ヒトHNSCCで高頻度にみられる遺伝子変異を模倣したノックインマウスを作成した。そのうち、Fat1 ノックインマウスは胎生致死であったため、胎齢マウスの表現型を詳細に解析したところ、第一鰓弓の形態異常により下顎および舌形成不全が起こることが明らかになった。さらに、HNSCCの生物学的な理解を深めるため、HNSCC症例のサブセット分類を行った。公共の1細胞RNAシークエンスデータの再解析の結果、HNSCCは3つのサブセットに分類された。そのうちの1つは、HNSCCの悪性進展・リンパ節転移と強く相関することが報告されている部分上皮間葉転換(partial-EMT)と強く関係していた。また、各サブセットのマーカー遺伝子を算出したところ、これまで報告されていないpartial-EMT関連遺伝子を多数同定した。これらのマーカー遺伝子を用いたクラスタリングにより、TCGAコホートやHNSCC細胞株も同様の分類が可能であった。現在、各サブセットの性状解析、partial-EMT関連遺伝子の機能解析に取り組んでいる。本講演では、我々が行なっている口腔がん研究の最新の知見を紹介したい。