The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

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特別講演2
新しい時代における養護教諭の実践・養成・研修の課題と展望~ニューノーマルやデジタル化等を見据えて~

Sat. Nov 6, 2021 2:00 PM - 3:00 PM LIVE配信第1会場

座長:宮尾克(公益財団法人名古屋産業科学研究所上席研究員)

2:00 PM - 3:00 PM

[SL2] 新しい時代における養護教諭の実践・養成・研修の課題と展望~ニューノーマルやデジタル化等を見据えて~

講師:後藤ひとみ (愛知教育大学特別教授・名誉教授)

〈プロフィール〉
専門は養護教育学.愛知教育大学で教育学修士,名古屋大学で博士(医学)を取得.北海道教育大学養護教諭養成
課程卒業(一期生),愛知教育大学大学院教育学研究科修了(学校保健学専修二期生).養護教諭,大学非常勤講師,
同朋大学社会福祉学部専任講師,北海道教育大学旭川校養護教諭養成課程教員を経て,愛知教育大学養護教育講座
教員となる.2014年4月より6年間学長を務め,特別執行役を経て現在に至る.

Keywords:養護教諭養成 養護実践 プロフェッショナル・アイデンティティ

1 .はじめに
 昨今,グローバル化,Society5.0,ESD,SDGs,GIGA スクール構想,人生100年時代,働き方改革,令和の日本型教育ニューノーマルなどの言葉を聞くことが多くなり,国策による社会変化が加速しつつある.このような動きをふまえて,第67回学術大会のテーマは「学校保健,その原点に立ち返る」であることから,学校保健の担い手である養護教諭に関しては不易流行を意識して考えてみたい.
 一般的に,不易は「どんなに時代が変わっても変わらないもの,変えないもの」,流行は「時代の流れに合わせて変わるもの,変えていかなければいけないもの」と理解されているが,語源と言われている蕉風俳諧の理念では「不変の真理を知らなければ基礎が確立せず,変化を知らなければ新たな進展がない」,つまり新しさを求めて絶えず変化する流行性にこそ,永遠に変わることのない不易の本質があり,不易と流行の根本は一つであると考える説がある.そこで,養護教諭に期待する新たな進展から見えてくる不変の真理を求めて,実践・養成・研修にかかわる課題と展望を概観したい.
2 .養護教諭という職の発展の歴史
 1999年11月に名古屋で開催された第46回日本学校保健学会のシンポジウム1「21世紀を見据えた養護教諭の養成教育」において,養護教諭養成の立場から提言させていただいた.その際,21世紀を見据えるには,過去・現在・未来という時間の中で養護教諭の足跡を整理する必要があると考え,20世紀の100年を養護教諭にとっての器(制度)が整備・確立した時代と捉えた.そして,第5期を迎えた21世紀は,器に入る中身となる養護教諭の専門性や役割を検討し,専門職としての真の確立をめざすときであると述べた.表1は加筆修正した2021年版である.
3 .プロフェッショナル・アイデンティティの確立にむけて
 養護教諭自身(養護教諭の集団・組織,個々の養護教諭)の取組み,養成機関が担う教育の内容や方法,行政機関(国,都道府県,市町村)による現職教育という三者・三面の相互作用や補完的かかわりが必要である.
 養護教諭自身については,自己評価や省察によって実践の質の向上をはかり,他者への積極的な発信によって成果を拡大させることで,実践知を共有し,確かな実践理論を構築していくことが求められる.ただし,それを支える養護教諭組織の構成や運営には考慮すべき点がある.なお,「養護教諭の実践」と「養成教育」と「現職教育」をテーマとした三位一体の交流や研究を通して,養護教諭の資質や力量の形成と向上に貢献している一般社団法人日本養護教諭教育学会であっても,正会員に占める現職養護教諭の割合は50%弱であり,そのうちで助成金研究や学会発表,論文投稿にかかわった経験者は半数に満たない.主体的な参加の促進が課題である.
 養成機関による教育については,我が国の教員養成制度を支えてきた二大原則(「大学における教員養成」と「開放制の教員養成」)のもとで様々な課題が提示されてきた.教員として必要な資質能力の考え方や教職課程のカリキュラムの編成,授業方法等に多様性があり,学校現場が抱える課題に実践的に対応できる指導力を有する教員を育成できる大学とそうでない大学とが混在している.このような状況は大学格差という問題に留まるものではなく,教員免許取得者の質をどのように保証するかという大学教育(教員養成)における本質的な課題になっている.
 行政機関が行う現職教育については,2015年12月21日の中央教育審議会答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について~学び合い,高め合う教員育成コミュニティの構築にむけて~」を受けて,「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針」(文部科学省告示第五十五号:2017年3月31日)を大綱として,各自治体の教員育成指標が策定され,いわゆる“着任時の姿”が養成のゴールであり,現職教員のスタートとなる構造が示された.しかしながら,注目された養成・採用・研修の一体的な改革の姿はまだ見えていない.
4 .養護教諭養成の現状
 教育職員免許法施行規則第19条~第23条では,文部科学大臣が免許状授与の所要資格を得させるための適当と認める大学の課程(以下「認定課程」という)に関して定めている.この認定審査によって,教員養成学部以外の大学であっても教員養成のための一定水準の教育課程を保つことになるが,具体的な展開は各大学に委ねられているのが現状である.
 表2には養護教諭一種免許状を授与している大学の学部名称及び専修免許状を授与している大学院の研究科名称をまとめた.これらの課程認定大学は増加しており,1999年度には四年制大学26学部,大学院17研究科であったが,5年後の2004年度にはそれぞれ59学部と35研究科に増え(官報に記載された文部省及び文部科学省告示をもとに集計),20年後の2019年度には140学部と69研究科に,2021年度には141学部(131大学)と70研究科(65大学院)になった(いずれも文部科学省資料をもとに集計).
 学部や研究科の名称は多様化する傾向があり,「開放制」によって各大学の特徴的な学部における教員養成が認められる一方で,養護教諭養成を支える学問領域の姿が見えにくくなっている.大学院の中には,学部で養護教諭養成を行っていない大学もあり,学部教育との系統性をふまえた養護に関する専門的な教育・研究となるべき大学院教育が専修免許状取得にとどまっている状況を生じている.同様に,放送大学や通信制大学での単位取得が認定されており,科目の読み替えも含めて養護教諭免許の取得方法はますます多様化している.
5 .大学院教育による養護教諭養成の高度化
 全国に先駆けて,愛知教育大学大学院教育学研究科に養護教育専攻が新設されたのは1993年のことである.設置要求の事由には,養護教諭の専門領域即ち「養護教育」の研究を発展させることが掲げられており,まさに養護教育学の出現にあたるものと言える.
 学部教育と大学院教育とが連動して展開されることが教員養成の質を高めることは言うまでもないが,現実のカリキュラムは授業等を担当する教員の専門によって支えられてきた.養護教諭養成の場合には,「どんな養護教諭像か.養護教諭像の実現にむけたカリキュラムはどうあるべきか.養護教諭として必要な能力や力量はどのようなものか.」についての議論は途上である.
 その一方で,2017年8月29日の国立教員養成大学・学部,大学院,附属学校の改革に関する有識者会議による報告書「教員需要の減少期における教員養成・研修機能の強化に向けて」では,より高度な専門性を備えた力量ある教員の養成を目指した教職大学院の拡充が示唆された. 2021年度現在,国立大学19校と私立大学1校の教職大学院(高度教職実践専攻,教職実践専攻,教育実践高度化専攻,教職実践高度化専攻,教職実践開発専攻等)において養護教諭の専修免許取得が認定されている(表2).今後は,養護教諭教育(養成段階における教育と卒業・修了後に行われる現職研修や自己教育なども含めた養護教諭の資質や力量の形成及び向上に寄与する活動)という視点で,専門職としてのキャリア発達を意識した養成教育の全体像を考え,教職大学院を核として,実践力やマネジメント力を有する高度な専門職養成を進めていく必要がある.
 なお,教育職員免許法施行規則第72条第2項では,「専修免許状には,大学院での専攻を記入するものとする.この場合において,次の各号に掲げる免許状の区分に応じ当該各号に掲げるいずれかの分野に関する単位を十二単位以上修得した場合は,大学院での専攻に加えて当該分野を記入することができる.」とあるが,養護教諭の分野例からは,大学院教育に裏打ちされたはずの専修免許に養護を支える「学」を捉えることはできない.
6 .新しい時代を見据えた養護教諭の実践・養成・研修の展望
 これまでも学校には,スクールカウンセラーなど養護教諭の仕事に深くかかわる職種が配置されてきたし,複数配置など養護教諭自身の職の在り方も変容してきた.2021年8月23日には学校教育法施行規則の一部改正が公布・施行され,学校における働き方改革の推進,GIGAスクール構想の着実な実施,医療的ケアをはじめとする特別な支援を必要とする児童生徒への対応等のために,学校において教員と連携協働する支援スタッフとして「医療的ケア看護職員」「情報通信技術支援員」「特別支援教育支援員」「教員業務支援員」の名称と職務内容が規定された.
 加えて,2021年1月26日の中央教育審議会答申「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~」の提言を受けて,小学校・中学校・高等学校の教諭免許取得において「情報通信技術を活用した教育の理論及び方法」1単位が新設・必修化されることになったが,養護教諭には適用されていない.
 冒頭で述べた考えに基づけば,流行性にこそ不易の本質が見えてくることから,新しい施策の中で果たすべき養護教諭の役割を確かなものにするために次の取り組みが有効と思われる.
 ① 目的をもって意図的に行う実践における「養護」の意義と成果を可視化させる研究の推進や学校教育臨床的な課題や事象を分析する研究手法の体得
 ②高度専門職の育成をめざした教職大学院での学び
 ③教職大学院での教育研究を担うことができる大学教員の育成(Ed.D.型博士課程の設置)
 ④ 新たな生活様式やデジタル化,種々の教育課題・健康課題に対応できる力を有する子供の育成を支援する養護教
諭の力量形成
 ⑤教員の質保証をめざした教員免許の国家試験化・国家資格化等の検討


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