The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

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シンポジウム7
教科としての「保健」を学ぶ本質とは何か-高校保健の新たな学習内容を手がかりにして-

コーディネーター:野津有司(筑波大学名誉教授),岩田英樹(金沢大学)

[SY7-2] 高等学校学習指導要領「科目保健」における精神疾患に関する指導

森良一 (東海大学)

Keywords:新学習指導要領 高等学校 精神疾患

はじめに
 現代社会における健康課題が多様化,複雑化してきている状況の中で,現代的な健康課題の解決に資する資質・能力の育成が議論されてきた.特に,中央教育審議会での議論とその答申(平成28年12月21日)を踏まえて,高等学校の科目保健の内容に「精神疾患の予防と回復」(平成30年3月告示)が示された.その内容が学習指導要領に位置づいた意義と課題について考えていきたい.

1  学習指導要領に位置づいた意義
 精神疾患は誰もがかかりうる病気であり,多くの精神疾患は思春期から青年期に始まることから,高校生にとって極めて重要な内容である.また,早期発見・早期治療の効果が明らかになっているにもかかわらず,正しい知識の不足から来る偏見・差別等が存在することからも,教育にしっかりと位置付けるべき内容であろう.
 平成30年告示の学習指導要領では,育成を目指す資質・能力の三つ柱として,すべての教科等に「知識,技能」「思考力,判断力,表現力等」「学びに向かう力,人間性等」が位置づいている(内容はほとんどの教科等が「知識,技能」「思考力,判断力,表現力等」の二つ).そのため,精神疾患に関する内容も次の通り示されている.
ア 現代社会と健康について理解を深めること.
(オ)精神疾患の予防と回復
精神疾患の予防と回復には,運動,食事,休養及び睡眠の調和のとれた生活を実践するとともに,心身の不調に気付くことが重要であること.また,疾病の早期発見及び社会的な対策が必要であること.
イ  現代社会と健康について,課題を発見し,健康や安全に関する原則や概念に着目して解決の方法を思考し判断するとともに,それらを表現すること.
精神疾患の指導に当たっては,とかく新しく位置づいた「知識」の内容に注目しがちであるが,アの「知識,技能」,イの「思考力,判断力,表現力等」の内容を踏まえるとともに,保健の目標に示されている「学びに向かう力,人間性等」も視野に入れて取り組むこととなる.

2  精神疾患に関する指導を進めるにあたって
 本内容が位置づいたことにより,保健で議論をしなければならないことが様々でてきている.今回は,本シンポジウムの趣旨に照らして次の3点に絞ってみた.
① 予防や回復の意味について
 これまでの一次予防中心の内容から,今回,二次予防,三次予防を含めた内容になったわけで あるが適切であったか.また,精神疾患では,症状が軽くなって落ち着いている状態を意味する「寛解」や治療を通じて,なりたい自分の姿に回復していくこと,この過程で自分らしく生活できるようになることを回復(リカバリー)と呼ぶが,学習指導要領と乖離していないか.
② 技能について
 心の健康に関しては,小学校で「不安や悩みなどへの対処」,中学校で「ストレスへの対処」が技能として位置づいている.高等学校においても,例えば「心の不調への気づき」「専門機関への相談の仕方」など,技能的な内容と考えられるものがある.これらの内容と資質・能力との関係性はどうなっているのか.
③ 集団指導と個別指導について
 本内容の指導が実施される高等学校においては,少なからず心の不調を持つ生徒や精神疾患にかかっている生徒が存在する.ほかの内容とも共通するが,特に精神に関わる内容は個別指導との連携が欠かせない.