国際開発学会第35回全国大会・人間の安全保障学会第14回年次大会

講演情報

一般口頭発表

スラム再考:形成の背景と現状、および再概念化

2024年11月10日(日) 09:30 〜 11:30 F304 (富士見坂校舎 304)

座長: 前川 美湖(笹川平和財団)

コメンテーター: 前川 美湖(笹川平和財団), 宮川 慎司(東京大学), 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所)

10:00 〜 10:30

[2D202] タイの「チュムチョン」とよばれる地域はいかなる特徴をもつのか?
3事業地で暮らす家族と生業をめぐる個人史の比較

*阿部 拓也1 (1. 筑波大学大学院)

キーワード:スラム、チュムチョン、家族、生業、タイ

1. 研究の背景およびリサーチクエスチョン
 世界各国にはスラムとよばれる地域がある。スラムは環境・経済・社会に問題がある地域に貼られる概念である。研究者は、この概念をある地域に付与することで、スラムの改善を名目とする立ち退きに間接的に加担してきた。この状況はスラムの代替語を構築することで打破できるのではないか。その代替語となるのがタイ語でコミュニティを意味するチュムチョンである。本稿では、「チュムチョンとよばれる地域はいかなる特徴をもつのか」「その特徴はスラムという概念の負のイメージを覆すのか」という問いに答えることで、その概念を構築する手法を模索する。

2. 資料・情報および分析方法
 上述した問いには、チュムチョンとよばれる地域を比較し、その類似点を特定することで答えられる。本稿では、異なる手法で開発された3地域を訪ね、そこで暮らす29人の家族・親族と生業・収入をめぐる個人史を収集した。この個人史からは過去から現在までに経験した家族・親族と生業・収入の類型が読み取れる。そこから、2-3地域で類似する類型にくわえ、それらが形成された要因を探る。

3. 得られた知見
 上述した方法からは以下の結果が得られた。家族の現在の類型は核/直系/拡大家族からなる。親族は家族と同じ区内/区外にいる。生業は自営業/被雇用/兼業/無職からなる。収入は日収/月収/年収/無収からなる。これらの現在の類型は94.0パーセントが全地域で類似する。この類似は過去の類型が開発で一新されずに存続した結果である。こうして、家族と親族は社会解体という負のイメージとは相反する良好な人間関係を築き、この関係が経済貧困に対処する術となると結論づける。本稿で見い出した類型はチュムチョンという概念を成り立たせる要素の1つとなりえる。このチュムチョンは、スラムの負のイメージを覆し、その改善を名目とする立ち退きを回避するために活用できるだろう。

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