第69回日本病院学会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム2
高齢者に対するこれからの医療

2019年8月1日(木) 16:30 〜 18:00 第2会場 (特別会議場)

座長:栗原 正紀(一般社団法人日本病院会 理事/一般社団法人是真会 長崎リハビリテーション病院 理事長・院長)

 我が国は急速に超高齢・少子化そして人口減少社会を迎えている。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、今まで経験したことのないような多くの後期高齢者が誕生する。後期高齢者は前期高齢者に比較して明らかに有病率・受療率や要介護者の割合が高いことは周知の如くであり、実際に多くの急性期病院では入院患者に占める高齢者(65歳以上)の割合は70%を越えるようになっている。このため疾病構造も大きく変化している。長崎救急医療白書によると救急搬送件数は年々増加し、しかもその増加の主な要因は内因性疾患による高齢者搬送で、殊に主な救急疾患である肺炎や脳卒中では大腿骨頸部等骨折同様に高齢者が80%以上を占めている。この意味で今や、可及的・速やかに高齢者医療の体系化・整備が求められるところである。 
人は加齢に伴って生理学的機能が低下する。結果、高齢者は潜在的低栄養状態、運動機能の低下による活動範囲の狭小化、精神的には自信を喪失し、孤独・孤立化、記銘力(認知機能)低下などが起こってくる。このため高齢者は容易に日常生活機能の低下を来たし、打撲・腰痛・風邪等によって徐々に廃用が加わり、閉じこもりから寝たきり(要介護状態)になってしまうという可能性を持っている。この様な高齢者の特徴を整理し、昨今では要介護状態になる前で、何らかの介入によって生活機能の維持・向上を図ることができるであろう状態像を指す概念として、新たに〇フレイル:「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態である」、或は〇サルコペニア:「加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の筋力低下が起こること、または、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど、身体機能の低下が起こること」が提唱されている。地域生活における啓発や介護予防・支援(サロン)等によって健康寿命の延伸を図ることの重要性が挙げられている。 
一方、このような可能性を持つ高齢者が何らかの原因(病気や怪我)によって入院すると「環境の変化や治療のための絶対安静(活動制限)あるいは投薬(ポリオファーマシーの問題等)などの影響によって容易且つ急速に廃用となり、合併症を併発して入院が長期化し、ついには寝たきりになってしまう」ことも指摘されている。これは『高度に進歩した臓器別専門治療が生活に繋がらない』ことを意味し、「生活に繋がらない地域医療とは何ぞや!」という地域医療における重大な課題が問われている。 
このため超高齢社会における、これからの病院医療は「社会生活から隔絶された世界で安静を絶対条件として行っていた治療」から、「可能な限り早く生活に戻るという、生活を積極的に視野に入れた医療のあり方」へと、パラダイムシフトが重要である。その実現には多くの専門職によるチーム医療が前提となる。そして医療機能の分化・連携によって、臓器別専門治療が着実に地域生活に繋がるような地域完結型医療提供体制の構築が本質的課題となる。 
この意味で各専門職は自らの知識・技術の向上を図ると共に、チームの一員として互いを知り、尊重し、そしてコミュニケーションを大切に、情報を共有、共に統一された目標に向かって、努力することが求められる。 
本シンポジウムでは医師・看護師・薬剤師そして管理栄養士の方々にこれからの高齢者医療の課題などについて発表いただき、専門職としてチーム医療に如何に寄与すべきかの方向性などを議論し、高齢者に対するこれからの医療のあり方について整理できたらと考える。

[SY2-1] 高齢者疾患の特性・フレイルと包括的アプローチ

小川 純人 (東京大学大学院医学系研究科加齢医学)

平成 5年 東京大学医学部医学科卒業
平成 5年 東京大学医学部附属病院研修医(第3内科、老人科)
平成 6年 JR東京総合病院内科
平成 8年 日本学術振興会特別研究員
平成11年 東京大学医学部附属病院老年病科医員
平成13年~平成17年 カリフォルニア大学サンディエゴ校細胞分子医学教室ポストドクトラルフェロー
平成17年 東京大学医学部附属病院老年病科助手
     文部科学省高等教育局医学教育課専門官(参与)
平成20年 同講師・医局長
平成21年 同講師・病棟医長
平成23年 同講師・外来医長
平成25年 東京大学大学院医学系研究科加齢医学准教授
現在に至る

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