第53回(2022年度)日本看護学会学術集会 幕張

講演情報

基調講演

基調講演 変化する社会で求められる看護の役割
~地域における健康・療養支援の強化~

2022年11月8日(火) 10:00 〜 11:00 第1会場 (コンベンションホールA・B)

座長:寺口 惠子

講師:福井 トシ子

[KY1-1] 変化する社会で求められる看護の役割

~地域における健康・療養支援の強化~

福井 トシ子 (日本看護学会学術集会長/日本看護協会会長)

【抄録】
 看護は、地域の人々の健康と生活をどのように支えていくことができるのか。新型コロナウイルス感染拡大での経験は、人々の自分の健康は自分で守るという健康維持や受療行動に関する意識の変化をもたらしたと言われている。看護はかねてより疾病予防・健康づくり、重症化予防の領域においてもその専門性を発揮してきた。人々の健康に対する意識の変化を踏まえ、私たち看護職は、この専門性を一層強化するとともに、その効果を社会に示し、今まで以上に国民の命と健康を支えていく役割を果たす必要がある。
 我が国は、少子化に加え超高齢多死社会を迎えており、疾病構造が変化し、医療機関から地域への療養の場の変化も進んでいる。また、2040 年には、65 歳以上の高齢者全体に占める85 歳以上人口が約3割となるとともに、高齢者世帯の約4割が独居、約3割が夫婦のみの世帯と、高齢者の孤立化を招く恐れが生じてきている。さらに、就職氷河期世代の約3 分の1 を占める団塊ジュニア世代が高齢者となることから、生活困窮化が懸念されている。このような変化する社会において、住み慣れた地域の中で疾病や障がいを抱えた人々を支援するには多くの課題解決が必要とされている。
 予防については、いわゆる骨太の方針においても、「疾患に関する正しい知識の周知啓発を実施し~(中略)~リハビリテーションを含め予防・重症化予防・健康づくりを推進する」と示されている。看護のアプローチにおいては、入院した人々が退院をし、地域において療養生活を送る期間にも、治療の中断や急激な状態の悪化により再び入院することがないよう、セルフケア能力の向上や生活習慣の改善のための行動変容を促していくことが重要である。このような働きかけは、病院や診療所の外来において看護職が行う療養指導として一部、診療報酬において評価されているが、まだまだ不足している。さらに、きめ細やかな支援を届けていくには、公的保険など既存の枠組みを超え、保険者や企業との連携及び協働などにより財源を確保した上で、例えば地域の訪問看護ステーションや看護小規模多機能型居宅介護、あるいは新たな場を看護の拠点として立ち上げ活動していくことも期待されている。
 講演では、2040 の社会背景を念頭に、国の制度・政策、地域で求められる看護職の役割を共有した上で、地域における健康・療養支援の強化に向け必要な取り組み等、今後の人々のニーズに応える看護のあり方や活動の方向性について述べる。