第53回(2022年度)日本看護学会学術集会 幕張

講演情報

口演

口演35群 対象を尊重する看護

2022年11月9日(水) 14:00 〜 15:00 口演会場4 (102)

座長:増渕 美恵子

[口演M-35-1] 虐待防止に向け他者評価によるリスクマネジメントの取り組み

伊藤 志保 (秋田病院)

キーワード:虐待防止、他者評価、組織風土

【抄録】
【目的】虐待が顕在化する前には、表面化していないグレーゾーンと言われる行為があり、さらに遡れば些細な不適切なケアが存在すると言われている。そして不適切なケアを「虐待の芽」と捉え該当行為がある場合は、その時点で対策を講じる必要がある。そこで今回、既存の虐待の芽チェックリストに沿った自己評価に加え、独自に同僚による他者評価を取り入れ、虐待防止に対する意識の向上と組織風土改革に向けた課題抽出を目的として取り組んだ。【方法】A 施設の看護師・介護福祉士・療養介助員の計44 名を対象に、虐待の芽チェックリスト(東京都福祉保健財団の許諾を得た)による自己評価に加え、同僚による他者評価を実施する。他者評価者は無作為に選択、被評価者には非公表とし、該当行為がある場合は理由を自由記載とする。その後、結果を踏まえて管理者と職員が個別面談を行う。倫理的配慮:所属施設の倫理委員会の承認を得た。【結果】自己評価と他者評価は概ね相違は見られなかった。自己・他者評価共に「利用者に対して子供扱いをしている」「ちゃん呼びをしている」「ちょっと待ってを乱用している」「プライバシーへの配慮に欠けている」の項目で不適切なケアが確認された。個別面談では、自己評価と他者評価の乖離がある場合、本人の思いを傾聴し改善策を共に考えた。他者評価に対する反応は「今後は意識して行動します」「同僚に言われると効く」と評価を受け止める返答が得られた。また他者評価で不適切なケアが認められなかった職員からは「自分の対応は間違いないと自信が持てた」「同僚からの評価は嬉しい」という返答があった。また約3割が他者のケアに疑問を感じていた。そして「職員同士で注意できるようにしたい」「委員として自分が指導します」という意見が聞かれた。【考察】虐待の芽チェックリストの自己評価では、普段の行動を振り返り個の内省を促すことができた。他者評価を追加したことにより他者への関心が増し、また自らのケアが他者に承認される機会ともなった。このことは組織風土改革に向けて行動変容の一助になったと考える。さらに他者評価は集団による内省を通じて職員間の結束を促し、虐待防止に対する職員の役割意識を向上させることに繋がった。これは人材育成の観点からもメリットが得られたと言える。今後の課題は、組織風土改革に向けて委員会の自主的な活動の推進が必要であると考える。