第53回(2022年度)日本看護学会学術集会 幕張

講演情報

口演

口演4群 精神看護①

2022年11月8日(火) 11:30 〜 12:30 口演会場2 (303)

座長:田上 美千佳

[口演M-4-5] 精神科急性期病棟における隔離・拘束に対するジレンマとその要因

吉田 剛1, 谷口 光二1, 山本 由紀1, 軸丸 清子2, (1.長岡ヘルスケアセンター(長岡病院), 2.聖カタリナ大学人間健康福祉学部看護学科)

キーワード:精神科、看護師、隔離・拘束、ジレンマ

【抄録】
【目的】精神科急性期病棟における隔離・拘束に対する看護師のジレンマとその要因を明らかにする。【方法】半構造化インタビューによる質的記述的研究。対象は、A 精神科病院急性期病棟勤務経験1 年以上の看護師6 名。研究者所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て行った。【結果】ジレンマは《医師の指示と看護判断のズレ》、《看護師間の看護判断の不一致》、《看護ケアに感じる不全感》、《患者を思いやることで生まれる戸惑い》、《自分の看護能力への自信の無さ》、《患者の自由保障と業務負担のバランス》、《治療目的以外(事故防止)のやむを得ない隔離・拘束》、《看護師の感情を交えた対応》、《隔離・拘束の知識や技術を得る機会の少なさ》の9つが生成された。要因は、《医師とのコミュニケーション不足》、《同僚への気遣い》、《経験知に依るところが大きい看護判断能力》、《看護の形骸化》、《夜勤帯の人手不足》、《病棟の疾病構造の変化(認知症患者の増加)》の6 つが生成された。要因の1つである《看護の形骸化》は、9 つのジレンマの内6つと関連しており、<マンネリ化した病棟看護>、<患者の安全確保・管理が容易>、<柔軟性のない病棟ルール>で構成されていた。【考察】要因の《看護の形骸化》は、最も多くのジレンマと関連しており、研究参加者のジレンマの主たる要因、本研究の特徴であると言える。そこで《看護の形骸化》を構成している3 つの要因について検討する。<マンネリ化した病棟風土>は語りの1つに、「行動制限カンファレンスが(本来の)目的よりも(開催が目的となり)形式的に行われている」とあり、これが象徴するように、患者の個別性重視が失われ、看護が習慣化しているのではないかと考える。また<患者の安全確保・管理が容易>は、隔離、拘束以外の方法で患者の危険を回避できる可能性があっても、容易な手段として、安易に行われている場合があるのではないかと考える。更に<柔軟性のない病棟ルール>は、患者に必要と考える看護が、統一されたルールの枠外であれば行えず、看護の個別性重視の妨げとなっているのではないかと考える。河野ら(2006)は看護師の考えや価値観と現実の看護の間にギャップがあるとジレンマになると述べており、《看護の形骸化》が看護師の看護観(価値観)と現実の看護との間にギャップを生じさせ、多くのジレンマの要因になっているのではないかと考える。