第54回(2023年度)日本看護学会学術集会 横浜

講演情報

口演

口演32群 家族看護

2023年11月9日(木) 13:15 〜 14:15 第7会場 (G312+G313)

座長:佐藤 律子

[口演Y-32-4] 重症化し医療的ケアを要する高齢者を再び自宅で介護する決断に至るまでの家族の思い

―退院支援で関わった1事例の分析―

中山 麻美1, 道上 智佳1, 國府 幹子1, 淺沼 愛子1, 佐谷 みゆき2 (1.東京都立荏原病院, 2.東京都立小児総合医療センター)

キーワード:初回面談、退院支援、家族介護者、家族の心理、意思決定支援

【目的】重症化し医療的ケアを要する高齢者が望む自宅退院に向けて、退院支援をうける家族の思いとその変化を明らかにする。【方法】調査期間を2020 年9 ~ 12 月とし、退院支援を受ける家族1 名に、入院6 日目~退院直前までの期間、面談中の非参与観察(平均30 分)と面談後の半構造化面接(平均18 分)を各4 回実施し、その結果を質的統合法で分析した。本研究はA 病院の倫理審査委員会の承認(受付番号:0245)を得て実施した。【結果】患者は妻と娘家族と5 人暮らしで、近隣に別の娘家族が住んでいた。患者は入院当初から一貫して自宅退院を希望していた。初回面談時の家族には9 つの思いが混在しており、それらを整理すると、患者への深い[愛情]と親子の[絆]が基盤となっていた。看取りを見据える[不安]や非協力的な他家族への[不満]により自宅退院への[迷い]が生じたが、支援者への[信頼]、[期待]、[安心感]と、これまでの介護経験による自信に裏付けされた[覚悟]があった。2 ~ 4 回目面談では15 の思いがあった。重症化に伴う[恐れ]、[戸惑い]、[迷い]、[焦り]という思いに、他家族による[重圧感]、[自信喪失]、[諦め]が加わったが、患者への[罪悪感]により葛藤が生じた。自宅退院への本人の希望を[確信]し、更に医療的ケア習得の[手ごたえ]による[安堵]、[安心]から自宅介護を[受容]し[前向き]になり、[新たな覚悟]を決めるに至った。【考察】本研究では、退院支援過程において本人の望みは変わらなかったが、家族の思いは揺れ動いた。医療的ケアを含む自宅退院の実現は家族の協力が必要不可欠であり、家族支援が重要となる、初回面談は、9 つの思いの構造より、家族の関係性、信念・価値観など、患者・家族の強みや課題を知る重要な機会であったと言える。また退院支援過程における家族の思いは、重症化を機に生じた[恐れ]から負の感情が膨らみ、[諦め]と[罪悪感]を行き来しつつ[受容]を経て[新たな覚悟]へと変化した。これは、経験のない医療的ケアや看取りといったストレスに遭遇した家族が、対処しながら適応する過程をたどったと考えられる。以上より、重症化し医療的ケアを要する患者の自宅退院に向けては、初回面談で患者・家族への理解を深めながら信頼関係を構築し、家族の揺らぐ思いに寄り添いながら、適応できるように支えることが重要である。