第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-14] 一般演題:脳血管疾患等 14

2022年9月18日(日) 09:40 〜 10:40 第2会場 (Annex1)

座長:佐賀里 昭(信州大学)

[OA-14-2] 口述発表:脳血管疾患等 14視野欠損,半側空間無視を呈した方の自動車運転再開支援

原 大地1 (1.前橋赤十字病院リハビリテーション科部)

【はじめに】自動車運転に必要な情報は視覚が90%を占め,(Hartman E:1970),視覚障害を有すると交通事故率が高く(Rubis GS:2007),健常者と比較して事故率が約2倍(Johnson CA:1983)であるとの報告もあり,視覚障害と交通事故との強い関連がうかがえる.本邦における第一種普通免許の適性試験合格基準として,一眼視力が0.3に満たない場合のみ他眼の視野が150度以上であることが問われる(道路交通法施行規則第23条).しかし,脳卒中による視野欠損や半側空間無視(以下;USN)の場合は中心視野が保たれているため,視力検査の基準を満たし,視野障害が適性検査上で表面化しないことが懸念される.今回,脳梗塞後に視野欠損,左USNを呈した方の自動車運転再開支援を経験したため報告する.なお,今回の報告に関して,個人情報に十分注意し,本人から書面で同意を得た.
【症例提示】症例は70代男性.左同名半盲,左USNを呈し,当院救急搬送された.作業療法介入時は意識清明であったが,左側のトイレに気が付かない,左側のごはんを食べ残すなど左USNの影響が動作・生活場面で観察された.医師の指示のもと発症から第5病日目に神経心理学的検査を実施した.全般的な認知機能は保たれていたが,注意機能の低下,一部視野欠損を指摘された.BITでは左USNは検出されなかった.J-SDSAは運転適性ありであったが,簡易自動車シミュレーター(以下;SiDS)では左側の標的に対して反応時間の遅延を認め,適性無しの判定であった.注意機能,視空間認知機能の低下から運転再開は危険と判断し,自動車運転は禁止として第15病日目に自宅退院となった.第111病日目に自動車運転支援目的で外来作業療法を開始した.
【実車前評価】身体機能面では四肢運動麻痺,感覚障害は認めず,独歩自立.自宅での生活は自動車運転以外のADL,IADLは全て自立していた.同居家族から見ても,体の左側をぶつけるなどの行動は観察されなかった.MMSE-J:29点,RCPM:31点,TMT-J part A:71秒,part B:83秒,J-SDSAは運転適性あり.SiDSでも左側の標的に対する反応時間は改善し,適性ありの判定であった.視野検査では一部視野欠損が残存していた.
【実車評価】第121病日目に指定自動車教習所での実車評価を実施した.S字・クランクの狭路走行,方向変換は脱輪なく遂行可能だった.教習所の場内では走行位置や速度調整などの問題は指摘されなかった.一般道路では生活道路での速度超過,一時停止の不履行が観察された.走行時間の拡大に伴い,車両位置が左に偏移し,電信柱に気が付かず,指導員から補助ブレーキを踏まれた.運転再開保留とし,第183病日目に2回目の実車評価を実施.初回の実車評価で指摘された運転行動は観察されず,走行時間が拡大しても車両の走行位置は左側に偏移することはなく,運転再開に至った.運転再開から1年後のフォローでは,運転頻度は病前より少なくなり,夜間や悪天候など視界が不良な条件下での運転を控えながら無事故,無違反で運転を継続していた.
【考察】精神状況や視界中の環境の複雑さにより有効視野の範囲は変化すると報告されている(光浦:1998).視野欠損の範囲を基準として運転可否判断を行うことはできず,個々の運転能力を評価することを推奨している(Patterson:2019)また,BITでは検出されずに,実車評価でUSNの症状が観察される者もいる(外川:2017).視野欠損やUSNを呈する者では,机上の検査結果が良好でも実車評価を行い,慎重に個々の運転能力を評価し,医学的に可否判断を行う必要性が示唆された.