第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-2-9] ポスター:脳血管疾患等 2重度失語症を呈した患者に対して急性期でのADOCを使用した作業の共有~目標設定と意思決定~

失語症患者の障害受容へのリハビリテーション

佐藤 晟也1福原 淳史1河野 明彦1 (1独立行政法人 国立病院機構 関門医療センターリハビリテーション科)

【はじめに】
Aid for Decision-making in Occupation Choice(以下 ADOC)は,対象者とOTが,対象者の意味のある作業を共有しながら,協働的に目標設定を行うことを促進するツールである.今回,重度の右片麻痺と非流暢性失語を呈した事例を担当した.本事例に対し,介入初期よりPaper版ADOCを使用し希望を表出するきっかけとなり作業に焦点を当てた介入が可能となり,ADOCの使用が,目標指向的な促進に寄与したことが示唆され為報告する.
【症例】
40歳代,女性,左MCA領域の脳梗塞.-5病日に左顔面痛にて受診しHunt症候群の疑いとして加療.1病日に朝起床後より右半身が全く動かず救急搬送.入院前は教師をしていた.
【経過】
2病日より作業療法を開始した.運動機能はFMA(U/E):5/66,(L/E):3/34,右肩関節に1.5∼2横指の亜脱臼を認めた.Trunk Impairment Scale(以下TIS):7/23,Trunk Control Test(以下TCT):61/100,FAC:1,Mini-BESTest:0/28,感覚機能は表在/深部共に軽度鈍麻.ADLは,FIM(運動項目)で13/91で,すべて介助を要している状態であった.高次脳機能は,RCPM:36/36,SLTAで重度非流暢性失語症を認めたが,日常生活上の希望を絵カードでの表出は指差しで正確に可能で,ADOCを用いて目標設定が可能と判断し,ADOCで①トイレ動作自立,②トイレまでの歩行を目標としトイレ動作をCOPM/GASを用いて事例と共有した.COPMでは重要度10,満足度3,遂行度2,GASは-1:手すりを使用して立位保持,0:見守り下での下衣操作,+1:安定した立位下で非麻痺側での下衣操作自立,+2:麻痺側も補助程度に操作に参加,とした.Tscore:37.6.トイレ動作では,非麻痺側荷重の立位に始まり,下衣操作時の姿勢制御は,体幹前傾し動作を行い,非麻痺側に軽度側屈, 麻痺側上肢は,肩甲帯後退/外転し下垂,麻痺側骨盤は後方回旋,麻痺側下肢では, 麻痺側骨盤後方回旋に伴い,股関節は外旋し,足部は小指側のみ床に接地しており,母趾側は浮いている状態であった.これら動作の主要な問題点として,非麻痺側荷重,徐重力屈曲活動困難,麻痺側上肢による抗重力伸展活動の阻害を挙げた.
作業療法として,体幹に対して座位/立位で麻痺側への側方重心移動練習を実施.麻痺側下肢や体幹の伸展活動の活性化を促した.トイレ動作に向けて課題指向的に実施する為, 背もたれ立位で体幹の伸展活動を保持した中での麻痺側下肢の保持練習や非麻痺側上肢を使用した動作訓練を行った.麻痺側上肢はEMS,起居動作でのCKCでの訓練を行い筋活動改善を促した.
【結果】
33病日には,運動機能FMA(U/E):5/66,(L/E):11/34,上肢麻痺は変化が無いが,TIS:19/23,TCT:87/100,Mini-BESTest:13/28,FAC:4,FIM:82/91まで改善し,トイレ動作では,非麻痺側荷重,麻痺側骨盤後方回旋は減少し,正中にて徐重力屈曲活動による下衣操作が可能となったが麻痺側上肢下垂に伴い体幹の抗重力伸展活動が阻害されていた為,上肢懸垂用装具を用いての安定した動作獲得は可能であった.COPMは満足度9,遂行度9,GASは+1まで達成し,T-score:68.6まで改善した.
【考察】
今回,急性期でのADOCの使用によって重度失語症を有する事例でも希望を早期から把握できたことで,課題指向型訓練が可能であった. 目標とする生活に向けての課題を理解することで,主体的な生活を送ることが可能となったと考えられた.意思表示の手段が限られている対象者に対してもADOCを用いて目標設定を行うことは,主体的な生活を送るため,急性期からでも有効な手段となることが示唆された.